目標達成による自己実現で長期に幸せになる
心理学や経済学においては、金・物・地位を目指す幸せは、ヘドニック・トレッドミル現象と呼ばれ、一時的な幸福には繋がるものの、慣れてしまうことで、その効果は時間とともに薄れていってしまうことも言われています。
では、お金を超えた何が幸せの持続に繋がるのでしょうか?
非地位財という、「他人と比較しない財」を得ることが幸せにつながります。その一つとして、自分自身の成長や進歩のため、自身の所属する会社や組織のため、などとして立てた目標に対し、努力をし、その目標を達成することが挙げられます。目標達成により得られる自己効力感や自己肯定感は、長期的幸福に繋がることが明らかになっています。また、目標達成有無にかかわらず、努力をした過程そのものが幸福に繋がるという報告もあります。
脳をトレーニングする
持続的に幸せだと感じることと、非地位財に関するポジティブな出来事に直面した時に発生する一時的な幸福はお互いを強化しあう関係があります。実はこの、長期的と一時的、両方の幸福には、脳の中で共通の場所(吻側前部帯状回)が関連しており、長期的な幸福は吻側前部帯状回の体積に関係して、一時的な幸福は神経活動に関係していることがわかりました。
最近の研究で、脳は筋肉と同じように、鍛えれば鍛えるほど特定の脳領域の体積が大きくなることが分かっているので、楽しい過去の記憶の想起や、明るい未来を想像するといったトレーニングにより、持続的な幸福が増強する可能性もありそうです。
<参考文献>
・Jebb, A.T., Tay, L., Diener, E. et al. Happiness, income satiation and turning points around the world. Nat Hum Behav 2, 33-38 (2018).
・Kahneman D, Deaton A. High income improves evaluation of life but not emotional well-being. Proc Natl Acad Sci U S A. 2010 Sep 21;107(38):16489-93. doi: 10.1073/pnas.1011492107. Epub 2010 Sep 7. PMID: 20823223; PMCID: PMC2944762.
・https://www5.cao.go.jp/keizai2/manzoku/pdf/report04.pdf
・Janina Larissa Bühler, Rebekka Weidmann, Jana Nikitin, Alexander Grob. A Closer Look at Life Goals Across Adulthood: Applying a Developmental Perspective to Content, Dynamics, and Outcomes of Goal Importance and Goal Attainability. European Journal of Personality, 2019; DOI: 10.1002/per.2194
・Matsunaga M, Kawamichi H, Koike T, Yoshihara K, Yoshida Y, Takahashi HK, Nakagawa E, Sadato N. Structural and functional associations of the rostral anterior cingulate cortex with subjective happiness. Neuroimage. 2016 Jul 1;134:132-141. doi: 10.1016/j.neuroimage.2016.04.020. Epub 2016 Apr 13. PMID: 27085503.
内閣府Moonshot研究目標9プロジェクトマネージャー(わたしたちの子育て―child care commons―を実現するための情報基盤技術構築)。内閣府・文部科学省が決定した“破壊的イノベーション”創出につながる若手研究者育成支援事業T創発的研究支援)研究代表者。脳情報を利用した、子どもの非認知能力の育成法や親子のwell-being、大人の個別最適な学習法や行動変容法などについて研究を実施。