仲の良さを過剰に表現したほうが刺さる
ひと昔前なら、一緒に入浴していた場面なんて思い出したくない、自分の次に父親が同じ湯船に入ることすらイヤという女子も多かったのではないでしょうか。次に父親が入ることを見越してメッセージを残すなんて考えもしない、むしろ「気持ち悪い」と感じる人が大多数だったと思います。
でも、Z世代にとってはこれが「いい親子」なのです。これぐらい過剰に描いたほうが、いい父親でありいい娘だと思われるわけですね。
どちらも僕にとっては違和感しかないCMですが、大事なのはZ世代やその親に向けた広告としては成功しているということ。つくり手の狙いがぴったりハマった好例と言えるでしょう。
Z世代の若者に刺さるものをつくるために必要なこと
ここで気になるのが、つくり手の意図です。気持ち悪さを狙ったら意外にも理想の親子像として受け入れられてしまったのか、それともZ世代の親子感覚をしっかりリサーチした上で「刺さる広告」をつくろうとしてつくったのか。後者だとしたら、マーケティングやリサーチの担当者はかなり優秀なのではないかと思います。
こうした例はCMに限らず、商品開発や新卒採用などの分野でもたくさんあります。昭和生まれの世代にとっては違和感だらけでも、ターゲットが若者なら若者に刺さるものをつくらなくてはなりません。昭和世代がどんなにいいと思って世に出しても、若者が「気持ち悪い」「古くさい」と感じたら失敗に終わるからです。
Z世代の感覚はアラフォー世代とは大きく違うもの。若者をターゲットにして何かを展開する場合は、まずそれを念頭に置いておく必要があるでしょう。その上で、どこがどう違うのか、何をいいと感じるのか、事前にしっかりリサーチしていただけたらと思います。
今回は友人関係や親子関係を例にとってお話ししましたが、こうした感覚の違いは化粧品や食品、料理、サブスクリプションなど幅広いジャンルにおいて見られます。マーケティングや商品開発を担当している方々には、Z世代に人気の商品や広告からその感覚を読み解くとともに、次は何が来るのか、2021年は何がトレンドになりそうか、予測した上で戦略を立てていただきたいと思います。
構成=辻村 洋子
1977年東京都生まれ。慶應義塾大学商学部卒業後、博報堂入社。博報堂ブランドデザイン若者研究所リーダーを経て、現在はマーケティングアナリスト。2022年より芝浦工業大学教授に就任。2003年、JAAA広告賞・新人部門賞を受賞。主な著作に『ヤンキー経済 消費の主役・新保守層の正体』(幻冬舎新書)、『パリピ経済 パーティーピープルが経済を動かす』(新潮新書)、『Z世代 若者はなぜインスタ・TikTokにハマるのか?』(光文社新書)、『寡欲都市TOKYO』(角川新書)、『Z世代に学ぶ超バズテク図鑑』(PHP研究所)などがある。