従業員シェアの意義

当然、出向先の企業は優秀な人材を確保するために「当社の社員にならないか」と誘ってくるのは間違いないだろう。実際に従業員シェアで居酒屋大手のチムニーからイオン傘下のイオンリテールに出向した45人のうち、10人がイオンに転籍(就職)している。受け入れ企業にとっても従業員シェアは人材獲得のチャンスでもあるのだ。

ANAやJALの社員にしても出向先から高く評価されることで自分の市場価値を知ることになり、CA以外の業種でのキャリアを目指したいという人が出てもおかしくない。あるいは②のように今まで気づかなかった自分のスキルの高さを確信し、他のサービス業でキャリアを築いていく道を選ぶ人が出てくるかもしれない。

また、③のように改めてCAという職業が自分に合っているという確信を抱く人もいるだろう。それだけではなく、異業種でモノを販売するという経験を通じて今までの職務の枠を離れて、出向元に新たなビジネスチャンスをもたらす人もいるかもしれない。

従業員シェアの意義について日本総合研究所の山田久福理事長はこう語る。

「違う業種で働いてみることで何かが得られる可能性もある。本来イノベーションは違うことを組み合わせることで生まれるものだ。結果として産業構造の転換につながり、産業の融合や新たなビジネスモデルを生み出すかもしれない。一方でデリバリー会社に出向した飲食業の人がデリバリー企業に就職するなど、労働移動が進む可能性もある。しかし、元の会社にとどまり解雇されるよりはよい。従業員シェアによって失業なき労働移動が進むことは社会的にも意義がある」

従業員シェアによって労働移動が進むと、出向元にとっては優秀な人材を失うのはデメリットかもしれない。しかし、従業員シェアが広がると、個人にとっては当初は不本意な出向かもしれないが、前述したように従業員シェアで違う業種を経験することで自分のスキルの市場価値や進むべきキャリアについて確信が得られるメリットもあるだろう。

溝上 憲文(みぞうえ・のりふみ)
人事ジャーナリスト

1958年、鹿児島県生まれ。明治大学卒。月刊誌、週刊誌記者などを経て、独立。経営、人事、雇用、賃金、年金問題を中心テーマとして活躍。著書に『人事部はここを見ている!』など。