外食産業の上場企業100社から1200人が出向
コロナ禍の業績不振企業が一時的に人手不足企業に従業員を出向させる「従業員シェアリング」が増えている。航空、ホテル、飲食業から出向が始まっているが、話題になったのがANAホールディングスや日本航空(JAL)からの出向だ。
家電量販店のノジマは11月から両社の客室乗務員や事務系社員の受け入れを始め、21年春までに約300人をノジマの店舗やコールセンターで働いてもらうことにしている。また、日本経済新聞社の調査によると、外食産業の上場企業100社が11月までに延べ1200人が異業種に出向したという。
送り出す企業としては①社員の解雇を回避できる、②出向という形を取ることで仕事の基本スキルを維持し、需要が回復したときに働いてもらえる、③人件費を抑制できる――などのメリットがある。一方、受け入れる企業は即戦力人材の確保だけでなく、接客業務の質の向上や、給与も送り先企業との折半となれば人件費も安くてすむというウィンウィンの関係が成り立つ。もちろん、社員にとっても雇用が維持され、給与も保障されるのであれば、それなりのメリットもある。
今回の従業員シェアは相当数の離職、転職を促す
しかし、今回の「従業員シェア」は相当数の社員の離職・転職を促すだろうと見ている。今回、と言ったのは、実は従業員シェアは1980年代から製造業を中心に実施されたことがある。例えば日立製作所など大手電機メーカーは閑散期の工場の従業員をトヨタ自動車など自動車メーカーの工場に受け入れてもらった経験がある。当時は人事部員が管理責任者として社員と一緒に現地に赴任。社宅や寮から工場に通うという生活を送り、期間を終えると再び元の工場に戻るというパターンだった。
社員は生産技術職であり、しかも終身雇用に守られており、当然、離職することは考えられなかった。しかし、今回の出向社員はもともと離職率の高いサービス業であり、昔のような終身雇用環境でもない。しかも社員の心境も複雑だろう。仕方なく出向を選択せざるをえないとしても、異業種の仕事にとまどいを感じる人もいるだろう。あるいは出向先から本当に戻れるのかという不安もある。