Q.SDGsを考えることで見えてくるものは何ですか?

A.気候変動問題だけが人類の課題ではありません

地球環境問題の歴史を見ると、1980年代から90年代以降、ほとんど気候変動問題すなわち地球温暖化問題一辺倒になっていきました。気候変動問題を放置すれば、遠からず人類は滅亡するという話も、いまや多くの人に知れ渡っています。コロナ危機以前は、人類が対処すべき地球規模の課題といえば真っ先に挙がるのが気候変動問題だったのです。

しかしSDGsエスディージーズ(持続可能な開発目標)を冷静に見ると、人類の課題に対する考え方は少し違って見えてきます。17の目標のうち、1、2、3番目には貧困や飢餓の撲滅、健康的な生活の確保が掲げられており、気候変動問題は13番目に入っているにすぎません。

実はSDGsは、ノーベル経済学賞の受賞者をはじめ、超一流の研究者によって構成される「コペンハーゲンコンセンサス」という組織の提案内容をほぼ踏襲したかたちになっています。「コペンハーゲンコンセンサス」は、「今後4年間で500億ドルの費用をかけて世界の役に立てるとしたら、どこに使うべきか?」という問題に取り組み、2004年以降、4年ごとに合意内容が発表されています。彼らの提案では、気候変動問題の優先順位はとても低かった。それは費用対効果がほとんど見込めないからです。

SDGsを通じて、いま一度「人類の課題」を曇りのない目で見る時期に来ているのかもしれません。

▼「人新世」とは
「人新世」とは、完新世に続く新しい地質年代の呼称として、大気化学者のパウル・クルッツェンが提唱したもの。その意味するところは、19世紀半ばの産業革命以降、人間のさまざまな活動が、地質にまで影響を及ぼすほど地球環境を大きく変質させているということであり、その筆頭に挙げられるのが気候変動問題です。「人新世」という概念は、人文系の研究者からも注目されていますが、まだ学問的にコンセンサスは得られていません。

構成=斎藤哲也 写真=iStock.com

岡本 裕一朗(おかもと・ゆういちろう)
哲学者、玉川大学名誉教授

1954年、福岡県生まれ。九州大学大学院文学研究科哲学・倫理学専攻修了。博士(文学)。九州大学助手、玉川大学文学部教授を経て、2019年より現職。専門は西洋近現代哲学。著書に、ベストセラーとなった『いま世界の哲学者が考えていること』(ダイヤモンド社)のほか、『ネオ・プラグマティズムとは何か』(ナカニシヤ出版)、『フランス現代思想史』(中公新書)、『ポスト・ヒューマニズム』(NHK出版新書)など。