フレックス勤務を活用し、フルタイム復帰。ロールモデル的存在に
社内ではスマホゲームアプリ「モンスターストライク」が大ヒットし、姜さんは韓国版モンストの運営チームに配属された。初めて携わる分野だけにとまどいは大きく、手探りで再スタートを切る。子育てと両立するためには働き方も見直した。
元々フルタイムでの復帰を希望していたものの、定時の10時から19時まで働くことは難しく、上司に相談してフレックス制度を活用。8時から17時までのフルタイム勤務で時間の使い方も工夫した。当時同社内でそのような働き方は珍しく、プレママ社員などから働き方の相談を受けるように。
「朝の2時間に集中して、前日のキャッチアップと今日解決しなければいけないことをリストアップする。10時になったらメンバーとコミュニケーションをとり、午前中にだいたい片付けます。子どものお迎えがあるので17時には退社して、それ以降の業務は他の人に引き継ぐようにしていました。それでも平日はふれあう時間が少ないので、週末はなるべく子どもに全集中すると決めていましたね」
復帰後一年目は、子どもが病気がちで、保育園からしきりに電話で呼ばれるため、会議中も携帯を手放せなかった。仕事も慣れない業務では頑張っても結果を出せず、落ち込むばかり。悩みながらも前へ進もうと懸命だった姜さんに、Webやグラフィック、映像を担当するクリエイティブグループから声がかかる。
自分の経験を活かせるディレクター職を任されることになったのだ。
苦い経験から学んだ、部下を諭すときに必要な配慮
2015年12月には組織「XFLAG ARTS」(現・デザイン本部)へ異動。姜さんは管理職に昇進し、マネジメントに携わる。課題はやはりメンバーとのコミュニケーションだった。チームでいかに仲間意識をもち、同じ目標に向かっていくか。姜さんには、今も苦くよみがえる出来事がある。
あるミーティングで一人のデザイナーが、他のデザイナーを見下すような発言をしたことで、発言を受けた側が泣いてしまったのだ。
「それまでは静観していたのですが、そこでピンと切れちゃって。本当はあとでその男性を呼んで個別に言うべきだったのに、私も我慢できなくて、その場でわっと責めてしまったのです。つい強い口調になってしまい、しくじったと反省して……」
とりあえずミーティングは解散。一人で冷静になって考えてみると、いろんなことが間違っていたことに気づく。ちょっと時間をおいてから、家でも夫に相談してみた。
「夫も管理職なので、『こういうことがあったんだけど、私もまずかったよね。あなたならどうする?』と聞いたら、『何かあっても人が集まっている場所で一人を責めるようなことはすべきじゃない』とか、『感情的になっちゃだめだよね』といわれ、しっかりフォローすることが大切だと。ずっと心に残っていたら次の仕事もしづらいので解決しなければいけないとアドバイスをもらいました」
後日、姜さんは責めた相手と個別に話し、まずは「ごめんね」と詫びた。配慮が足りなかったことを反省したうえで、本当に伝えたかったことを話し、「仲間意識を持って、相手を尊重してコミュニケーションしてほしい」と諭す。さらに他のメンバーも集めて詫び、自分の思いを丁寧に話したのだ。その出来事をきっかけに、適切なタイミングや状況、場所にも配慮し、冷静に話すことを心がけるようになったという。
そもそも職場におけるコミュニケーションには誰しも悩むが、姜さんはさらに日本と韓国の違いも感じてきたことだろう。
「日本では良くも悪くもはっきり言わないところがありますね。最初はよくわからなくて、『これは良いの? 悪いの?』ととまどうことも多かったです。韓国はけっこうアメリカと似ていて、白黒はっきり言ってしまう。私もそうなりがちなところがあって反感を買ったりするので、なるべく柔らかく話すように心がけています。それでも伝えるべきことや改善してほしいところはきちんと説明する。厳しいことを言うのは辛いけれど、本人が気づかなければ成長につながらないですからね」