ヨーロッパ人が持ち込んだ天然痘が、中南米で大流行

最悪の感染症被害というと、実は1500~1600年代の中南米における天然痘の流行かもしれません。ヨーロッパ人が先住民の社会に持ち込んだ天然痘は、あっという間にアステカ王国やインカ帝国で広まり、免疫を持っていない先住民たちはバタバタと亡くなりました。

やがて、これらの国々の軍事力や国家体制は衰退し、十分な抵抗ができないまま滅亡の道へと進んでいきました。

天然痘が流行した際、患者を船で輸送する様子。
天然痘が流行した際、患者を船で輸送する様子。(写真=Getty Images)

現代文明の道具や武器を、科学的にどううまく使うか

また急速に拡大する感染症として見逃せないのが、1918~20年に世界的流行となった“スペインかぜ”と呼ばれるインフルエンザです。第1次世界大戦末期、アメリカ軍の中から発生したこの感染症によって、世界で5000万~8000万人が亡くなったとされています。当時の世界人口が約20億人だったことを考えると、まさに史上最悪の感染症被害といえるでしょう。

大規模な感染症の被害は、当然、その後の社会に大きな影響を残します。1300年代のヨーロッパのペスト流行後は、人口が大きく減ったことで、労働力不足が起こり、農民や労働者の賃金待遇がよくなったり、領主の権力が衰退したりして、その結果、多くの庶民の消費水準が上がり、毛織物産業などが発展しました。一方で行政組織や権力の発達も進みました。

中世で起こったことは、現代社会に通じる面もあります。つまり、感染症によって大きな被害を受けたあとは、人や命といったものを大切に扱う傾向が強くなり、それがライフスタイルの変化としてあらわれること。そして危機に対応できる政府や行政組織の権威が高まり、その強化が進むということです。

冒頭で述べたように、感染症は文明にともなう副作用です。文明の副作用に対しては、文明の力で対処するしかありません。私たちは今、過去のヨーロッパ人が想像もつかないほど、さまざまな感染症に対抗する道具や武器を持っています。

そういった道具や武器をいかに科学的にうまく使うか、そこが肝要であることを今回の新型コロナウイルス災禍で、われわれは感じさせられたように思います。