専門家の「長期投資でリスク低減」発言の大問題

ところが、評論家やFPの人たちは「長期投資をすればリスクを低減することができる」と言います。リスクのことを「損をする可能性」と思っている人が、そういうセリフを聞くと、「あ、長期投資をすれば損する可能性が少なくなるんだ!」と思い込んでしまいます。

実はこれが問題なのです。「長期投資がリスクを低減する」、というのは正確に表現すると、「単位期間あたりの標準偏差は計測期間を長く取ることによって平均値に回帰する」という意味なのです。これでは何のことかわかりませんね。もう少しやさしく言い換えましょう。

例えば気温を考えてみてください。年によって温度差は大きい年も小さい年もあります。ここで言う寒暖の差が投資で言うリスクなのです。夏は猛暑で冬が厳冬という年であれば、投資風に言うとその年のリスクは大きいということですし、逆に温度差が少ない場合はリスクが小さいということです。このリスク、つまり寒暖の幅は年によって全く変わりますし、毎年の寒暖差を正確に予測することはできませんが、50年とか100年単位で見ると、大体平均的な幅に収まっているというのがわかります。つまり「長期投資をすればリスクを低減できる」というのは投資する期間が長ければ1年あたりの損益は平準化していきますよ、ということにすぎません。

長期で投資するほど損をする可能性は高くなる

もし多くの人が考えているように「リスク=損をする可能性」だとすれば、長期に投資すればするほど損をする可能性は大きくなります。これは考えてみれば当たり前の話です。だって、例えば向こう3カ月間と、向こう10年間では、どちらの方がリーマンショックのような暴落に遭う確率は高いと思いますか? まあここから3カ月ぐらいなら、そういう可能性はほとんど無いかもしれませんが、向こう10年であればほぼ100%そういうことは起こると思います。実際にリーマンショックのような大幅な株価の下落は決して100年に一度どころではなく、10年に一度ぐらいはほぼ起きています。

リスクの量というのは「投下する金額の大きさ×投資をする時間」で計算されるものですから、金額が一定であれば、長く保有すればするほどリスクの量が大きくなるのは当然です。したがって、長期投資をすれば「損をする可能性」としてのリスクは大きくなると考えるべきでしょう。ところが前述のように多くの人は「長期投資でリスクが低減する」という言葉を「長期投資すれば損しにくくなる」と間違えてしまうのです。