地銀カルチャーの問題点

地域経済に資金需要がなければ、集めた預金は資本市場経由で産業資本供給者としての役割を果たすべきですが、多くの地方銀行には高度な資産運用への知見が乏しくままなりません。ならば地元経済の隠れた資金需要を発掘し、経済再生の担い手たる地銀本来の社会的機能を果たそうにも、地域の殿様化してしまった地銀カルチャーがリスクマネーの供給能力を劣化させてしまったという残念な事実もあります。

菅内閣の地銀再編提言はそうした現実に鑑みて、まずは預金余剰のオーバーバンキング状態を解消することが目的でしょう。預金をゼロ金利でかかえたまま地銀に滞留させておいては日本全体で1千兆円超の預貯金が新たな富を創出できず、せっかくのお金が無為なままです。

従って菅内閣に限らずこれからの継続的な国策として、銀行に預けたままの預貯金を生活者自らが資本市場経由で産業資本として成長期待の存在する実体経済に投下し、リスクマネーとして新たな富を産み出す資金に転換させること。それが「貯蓄から投資(資産形成)へ」のスローガンの政策意図なのです。資金の出し手である生活者が投資のリターンを得ることは、かつて国民が預金利息を得て豊かな人生創りへの糧としていた構図の代替です。

読者の皆さんには、地銀再編の社会的意義を理解するとともに、資産形成手段としての真っ当な投資の必要性に本質的関心を高めてみていただきたいのです。

写真=iStock.com

中野 晴啓(なかの・はるひろ)
セゾン投信 創業者

1963年生まれ。東京都出身。明治大学卒業。1987年、現在のクレディセゾンへ入社。セゾングループの金融子会社にて債券ポートフォリオを中心に資金運用業務に従事した後、投資顧問事業を立ち上げ、運用責任者としてグループ資金の運用のほか、外国籍投資信託をはじめとした海外契約資産等の運用アドバイスを手がける。その後、クレディセゾン インベストメント事業部長を経て、2006年にセゾン投信を設立。2023年6月に代表取締役を退任。セゾン文化財団理事。著書に『最新版 つみたてNISAはこの9本から選びなさい』(ダイヤモンド社)などがある。