感情に左右されない力を鍛える

マインドフルネス瞑想によって、①注意制御(今だけに意識を向ける)、②感情調整(感情をのせずに事実だけに目を向ける)、③自己知覚(正しく自分を知る)が導かれ、結果的に自己コントロールができるようになり、効果を得られるとされています。

人は、他人と比較し安心感や不安感を行き来したりしがちです。けれども、置かれている環境・状況について、良い悪いといった価値判断をしたり、不快だ、と感情的に反応したりせずに、自分の状態や思考の癖について俯瞰することが重要です。そこで初めて、感情にとらわれずに選ぶべき選択や、とるべき行動をとることができるのです。その結果、問題を大きく考えすぎてしまったり、破局的な解釈(何もかも終わりだ、等)といった、悩んでいる時に起こりがちなことも避けられます。

近年、“マインドフルネスをすると集中力が高まる“といった言葉だけが独り歩きしています。マインドフルネス瞑想によって鍛えられるのは、「自分を俯瞰し目の前の事実のみに着眼する力(感情のコントロール)」で、それにより、自分自身も自身を取り囲む周囲についても、肯定的に受け入れられるようになります。

この「状況を俯瞰し感情に左右されない力」が、ビジネスや人間関係といったあらゆる場面で効力を発揮してくるのです。

理不尽なことも多く、それをなぜ自分が受け入れなければいけないのか? と受け入れられず苦しむ時、マインドフルネス瞑想などを活用しながら、感情コントロール訓練をし、レリジエンスを高めることができれば少し生きやすくなるでしょう。

<参考文献>
・Adler, A. B., Williams, J., McGurk, D., Moss, A., & Bliese, P. D.(2015). Resilience training with soldiers during basic combat training: Randomisation by platoon. Applied Psychology: Health and Well-Being, 7, 85–107.
・Southwick,S.M., Vythilingam,M., & Charney, D.S.(2005). The psychobiology of depression and resilience to stress: implications for prevention and treatment. Annual Review of Clinical Psychology 1: 255-91.
・American Psychological Association. “10 Ways to build resilience ” in The road to resilience.
佐伯年詩雄 2007.「スポーツ・野外活動・自然体験が育むもの」『児童心理』第61巻,pp.254-258. 52
・Hölzel, B. K., Lazar, S. W., Gard, T., Schuman-Olivier, Z., Vago, D. R., & Ott, U. (2011). How does mindfulness meditation work?: Proposing mechanisms of action from a conceptual and neural perspective. Perspectives on Psychological Science, 6, 537–559.
・Tang, Y. Y., Hölzel, B. K., & Posner, M. I.(2015).The neuro science of mindfulness meditation.Nature Reviews Neuroscience, 16, 213–225.

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細田 千尋(ほそだ・ちひろ)
東北大学大学院情報科学研究科 加齢医学研究所認知行動脳科学研究分野准教授

内閣府Moonshot研究目標9プロジェクトマネージャー(わたしたちの子育て―child care commons―を実現するための情報基盤技術構築)。内閣府・文部科学省が決定した“破壊的イノベーション”創出につながる若手研究者育成支援事業T創発的研究支援)研究代表者。脳情報を利用した、子どもの非認知能力の育成法や親子のwell-being、大人の個別最適な学習法や行動変容法などについて研究を実施。