前向きであることは大事だが、ポジティブ思考の行き過ぎは禁物だ。東北大学准教授の細田千尋さんは「有毒なポジティブ思考といわれる『トキシック・ポジティビティ』の状態になると、自分の心身のネガティブな変化に気づけない危険をはらんでいます」という――。
イヤホンで音楽を聴く女性
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「有害なポジティブ思考」で自分を傷つけていないか

「自分のこころを決めるのは自分なのだから、どんな時もポジティブに考えることが大切」「何事も気の持ちよう!」そんなふうに考えて頑張りすぎている人は多いのではないでしょうか。

これが行き過ぎると、有毒なポジティブ思考と言われる「トキシック・ポジティビティ」となり、自分を傷つける行為になってしまう危険をはらんでいます。

この「行き過ぎ」に気づくには何が必要でしょうか。

自分の感情をうまく制御しながら心の健康を保つには、適度な自分の体への気づきが必要であることが多くの研究から示されています。この、自分の体への気づきは、「内受容感覚」と呼ばれ、鍛えることができます。

体の変化が脳に伝わり感情が生まれる

楽しい、苦しい、嬉しい、悲しい、腹立たしい……などの感情は、家族や友人と過ごしていたり、仕事をしているとき、場合によっては1人で過ごしている時間にSNSなどを見ている時でも感じます。このようなさまざまな感情を感じているときに、心臓の動きに大きな変化が生じたり、胃の収縮が起こったり、血の気が引くような感覚を覚えるなど、身体のいろいろな場所の急激な変化が生じます。

心臓の鼓動や、胃や腸などの内臓感覚、それ以外にも、喉の渇き、性欲といった身体の内側の状態や、その変化に気がつく感覚を、「内受容感覚」といいます。私たちが、自分の感情や気分を理解するのにこの感覚は重要な役割を果たします。

多くの人は、脳が感情を決めて、その後に、胃が痛くなる、とか、血圧が上がる/下がるということが起こる、と思っているのではないでしょうか。実は、逆です。つまり、体の中で起きる異変が先にあり、その変化を脳が察知して、悲しい、怖い、つらいなどの感情が生まれる、ということです。内受容感覚は、自律神経によって脳に伝えられ、感情や気分を生み出したり、ホメオスタシスや意識を形成したりする基礎を構築しているのです。これが、内受容感覚が感情に深く関与する理由です。