異なる意見でも対話する

教養を深めるためには、自分と違うものの考え方や背景を持った人との出会いと対話が不可欠になります。それまで自分が当然だと思い込んでいたことが、ほかの人にはまったく通用しない、という体験をすると、思考の体幹が鍛えられます。

さらに、対話によって、相手のことだけではなく、自分のこともよくわかるようになります。自分はなぜそう思っていたのかを振り返り、相手にわかる言葉で説明する能力が養われるからです。

対話には、お互いへの敬意と礼儀も大切です。「教養とは、気分を害さず、自信も失わずに、人の意見を聞く能力のことだ」と言った人がいます(アメリカの詩人、ロバート・フロスト)。どんなに優れた知性があっても、礼節を欠いた人を「教養がある」とは言わないでしょう。教養は、知識の多寡だけで決まるものではありません。自分の考えを整理して要点を説明し、他人の考えを取り入れて評価し、お互いにもう一段高いところへ進む――こういう積み重ねが役立ちます。

変化の激しい社会を乗り切るには、自分への投資が必要です。就労年限の長期化という傾向からすると、これからはジョブもキャリアも新しい挑戦をする機会が増えるでしょう。思い切った方向転換をしようとするなら、学び続けることを止めてはいけません。

教養に近道はありませんが、注いだ努力は必ず報われます。

構成=岩辺みどり 写真=iStock.com

森本 あんり(もりもと・あんり)
国際基督教大学教授

プリンストン神学大学院博士号(組織神学)取得。国際基督教大学学務副学長、日本私立大学連盟教学担当理事者会議幹事会委員長などを歴任。著書に『反知性主義』(新潮選書)、『異端の時代』(岩波新書)など。