「上」はいなくなるから放っておけばいい

第2条については、それこそダイバーシティの神髄だ、と宮原さん。

「異なった意見をもつ上の役職の人とも、とことん議論する過程って大事じゃないですか。そもそも担当レベルのほうが、上より現場の情報を持っていますし、上の意見は、過去にはそうだったかもしれませんが、今は競争環境も変わっています。でも、自分の出世もあるから、役員には気に入られたい。そんな豹変ぶりを、横で見ていてがっかりしているんじゃないでしょうか」

開講当初、“上が変わらない”“組織が変わらない”と言うメンバーたちに、内永理事長が放った「上は放っておいていい。変わんないんだから」「上はいなくなる。あなた方から変えていかなきゃ」という檄も刺さっていたようだ。

この10カ条を観音開きの冊子にして各社で配ったり、各職場のパソコンの壁紙やスクリーンセーバーに強制的に記載する等々を計画したものの、残念ながらコロナのおかげで全員が集まる場が消滅。4月のオンライン会議を最後に、プログラムは5月でいったん打ち切りとなった。

「もったいないですけど、新しく今期から参加する人たちは、前回から引き継ぐことに前向きのようです。また一からやるよりも、われわれの期がここまでやったことをどう展開していくかという考え方もあるかもしれません」

今後の展開について、何か腹案はあるのだろうか。

「内永さんの力も借りつつ経営層に10カ条を渡すという話も出ています。ただその前に、社内勉強会みたいなものを持ち回りでやっていきたいというメンバーもいます。私も10月にメンバーの会社の勉強会にアドバイザーとして参加する予定でいます」

この成果を共有し、おのおのの社内でどう進めていくかについてアイデア出しを行っているところだとか。今、大企業の大半にはダイバーシティ推進部門がある。そうした部門の人たち向けに成果を伝える活動だという。少しずつでも、こうした活動が拡大していって、日本企業の内側からの活性化・生き残りにつながってほしい――これは女性の働き手だけでなく、心ある職業人たちの切なる願いでもある。

写真=iStock.com

西川 修一(にしかわ・しゅういち)
ライター・編集者

1966年、神奈川県生まれ。中央大学法学部卒業。生命保険会社勤務、週刊誌・業界紙記者、プレジデント編集部を経てフリーに。