男性が阻害行動を起こす要因5つ

このアンケートをもとに、分科会チームはそうした阻害行動を起こす要因として、①自己防衛心 ②男性の被害者意識 ③マイノリティ排除 ④自分至上主義 ⑤引き継がれるオールド・ボーイズ・ネットワークの5つを上げた。

「私に“刺さった”のは②で、男性には女性をひと括りにして考えるところがあったんじゃないか。つまり、うまくコミュニケーションが取れないために、決めつけで行動する管理職がいるんじゃないかと気づいたんです。例えば、無意識のうちに『女性は守るべきもの』と過剰に保護することで、かえって女性のモチベーションを下げてしまい、揚げ句に『女性はいいよな』という方向に意識が動いてしまう」

そこで思考が止まったまま、その女性たちを生かそうとは考えない男性管理職がほとんどだ。このアンケートの回答者たちは、その思考停止も見抜いて回答していたのではないかと犬塚さんは指摘する。

「ここに自分たちがしっかり気づいて、良い方向に向かわないといけないと思いました」

男性管理職向け「言動チェックリスト」を作成

こうした分析をもとに、犬塚さんらは男性管理職向けに自らの言動に関するチェックリストを作成した。例えば「女性に対するアンコンシャス・バイアス」や「コミュニケーション不足」に関して5項目ずつある質問に回答し0~3点の点数をつけていくと、本人の「忖度傾向」「男女差別」「対話の偏り」などがレーダーチャートで「見える化」されるしくみ。そしてその結果次第で“処方箋”を出す。

「“処方箋”はどういう活動をするかというアドバイスです。女性に対して1歩踏み出せない人には1on1(1対1のミーティング)をやるとか、男女がバランスよく入った座談会を自分が座長となって開く、といった処方箋が出ます」

これらを各社で展開する予定だったが、コロナ禍でメンバーが直接会えず、オンラインでの活動にまだ慣れていないため、残念ながら実行の段階には至っていないという。

昇進して社会や会社を変えたい女性はたくさんいる

内永理事長から、「メンバーの中で、最も大きく意識が変わった人」と評される犬塚さん。仲間と会話をしていく中で、少しずつ多様性の大切さに気付いていったという。

「職場に戻って日々の業務をこなしていると、分科会で議論したことをつい忘れがちになります。でも、翌月また仲間に会うことで、前回会って話したことが役に立ったか? とか、目的を見つめ直すことができた。それを重ねるうちに、少しずつ気持ちが変わっていったのかなという気がします」

活躍したい、昇進してもっともっと高い役職に就いて、社会や会社をよくしていきたい、自分の生活を豊かにしていきたいという女性がたくさんいることに気づきなよ、ということをJ-Winで学んだ、と犬塚さんは言う。

「部下とは男女関係なく、定期的に1on1をやっています。仕事の話というより、『先々どうしたい?』という未来の話をするようにしています。そうやって話をしていくと、こちらから聞かなくても自分の課題や悩みを言ってくれるようになる。質問で引きだすという事ではなくて、回を重ねていくと、素直にこちらと向き合ってくれるようになります」

部下が心を開く。これは大きな変化だろう。7月に始まった分科会だが、約半年を経た11月か12月頃から、「自分の半径1~2メートルの職場の雰囲気が変わったなと感じたという犬塚さん。「オールド・ボーイズ・ネットワークをぶっ壊す!」と意気が上がる。

「まだまだ威張って言えるほどのことではないですが、今よりもっと働きやすい職場を実現したいと思っていますし、今は多様性の大切さが腹落ちしたので、進めていきたいなと。総合物流企業なので、女性だけじゃなくて、すべての従業員に働きがいを持ってほしいと思っています」

写真=iStock.com

西川 修一(にしかわ・しゅういち)
ライター・編集者

1966年、神奈川県生まれ。中央大学法学部卒業。生命保険会社勤務、週刊誌・業界紙記者、プレジデント編集部を経てフリーに。