世界の主流となりつつある「共同親権」

国連の「子どもの権利条約」が1990年に発効して以降、親が離婚した後も父母が共同で子どもの養育や教育に関わる「共同親権」を原則とする国は増加している。法務省が今年4月に発表した24カ国調査によると、「単独親権」しか認めていない国は日本のほか、インドとトルコだけだった。

共同親権が導入されても、子どもの養育や教育、面会などの内容については協議で細かく取り決めることになるので、結果として単独親権に近い状態とすることもある。

一方、日本の場合は単独親権しか認められないために、親権の取り合いになることも多く、協議がし烈になりやすい。そもそも不仲の理由は、性格の不一致とか出来心による浮気なども多いのに、単独親権しか認められないがために、相手を徹底的に悪者にしてでも子どもを奪い合うことになり、顔を見たくないほどのいがみ合いに発展してしまう。そもそも双方の親で親権を分け合えるものであれば、相手を徹底的な悪者にする必要もなくなる。子どもを奪い合う前に、子どもの最善の利益を鑑みて協議して決めることができるようになるはずだ。

「子どもの権利」を守るためには

児童心理学者の小田切氏は、「片親による連れ去りは、もう一人の親との心身両面での日常的な関わりを奪うばかりでなく、住み慣れた家、地域、友人、学校などから根こそぎ引きはがしてしまいます。これは、子どもに継続的なストレスやトラウマを与え、長い人生に渡って影を落とすことになりかねなません」と指摘する。

子どもの連れ去りの問題を解決するためには、共同親権の導入に加え、DVや虐待被害の検知、加害者の矯正・治療や被害者支援の体制の整備なども充実させねば本末転倒にもなりかねない。また、日本人の「家」や家族のとらえ方、母親に偏重した子育てのあり方についても、変容が求められるだろう。

夫婦喧嘩も離婚も、国際法か国内法かも、連れ去りか誘拐かも、「大人の都合」に過ぎない。たとえ、妻にとっては許しがたい夫であっても、子どもにとっては、大好きなパパかもしれないし、将来は頼りの親族になってくれるかもしれないのだ。両方の親が子育てに関わり続けることが、子どもの権利を守ることにもなるはずだ。

世界保健機構(WHO)は、片親との断絶は子どもの健康への脅威であるとしているほか、子どもの権利条約では連れ去りを「心理的虐待」にあたると定義している。子どもは、情緒的に安定した親と、愛情のこもった心と身体の繋がりを保って、健全に成長するという基本的権利を持っている。現状の日本では、クリアすべき課題は多いが、「子どもファースト」の考え方で、子どもが心身ともに健康に、幸福に成長できる環境を作るために、制度を整えていくべきだろう。

佐々木 田鶴(ささき・たづ)
ベルギー在住ジャーナリスト

上智大学卒。米国およびベルギーにてMBA取得。EU(欧州連合)主要機関が集まるベルギー・ブリュッセルをベースに、欧州の政治・社会事情(環境、医療、教育、福祉など)を中心に発信。共同通信News47、ハフィントンポスト、SpeakUp Oversea’sなどに執筆。