「子連れの家出」=「連れ去り」は国際法違反

欧州議会には、普通の市民が、直面する問題を直に持ち込み、助けを求めることのできる「請願委員会」がある。今回は、フランス人、ドイツ人、イタリア人2人の計4人の当事者(子どもを連れ去られた被害者男性)による請願から始まった。彼らの日本人の妻が、EU籍をもあわせ持つ自分の子どもを連れ去ってしまい、子どもが父親と交流する権利が侵害されているというのだ。

日本は1994年に国連の「子どもの権利条約」、2014年に国境を越えた子どもの連れ去りを禁止する「ハーグ条約」(国際的な子の奪取の民事上の側面に関する条約)を批准している。子どもの権利条約(第9条3項)では、子どもが父母のいずれととも定期的に人間的な関係と直接の接触を維持する権利を尊重するとしており、ハーグ条約は、主に国境をまたぐ子どもの連れ去りについて規定したものだが、同時に、親子が面会交流できる機会を確保するのは国の務めと定めている。欧州議会は、日本がこれらの国際条約を遵守しておらず、両条約で掲げる「子どもの最善の利益」を守っていないと指摘している。

日本国憲法(98条2項)では、「日本国が締結した条約及び確立された国際法規は、誠実に遵守することを必要とする」としている。しかし、昨年11月には、イタリア人男性を含む「連れ去られ親」による集団訴訟で、東京地裁の前澤達郎裁判長が、日本が国連の子どもの権利条約に批准していても、国内では法的拘束力がないと判決で述べたことがロイター通信などで報じられた。

欧州議会の請願委員会事務局によると、正確な件数は不明ながら、「日本人による子どもの連れ去りは、ここ5年ほどの累計で1万件を超える」と推定する。欧州で子どもの行方不明・奪取問題に取り組む国際NPOミッシング・チルドレン・ヨーロッパのH.デマレさんによれば、貧困・宗教などの要因が絡む国ならまだしも、法の支配を尊重するはずの先進国では信じがたい数だという。

近年、欧州議会だけでなく、アメリカやカナダ、オーストラリアからも抗議の声があがっている。日本のメディアはほとんど報じていないので、日本国内ではあまり知られていないようだ。しかし、日本で「連れ去り」「奪取」と訳されている言葉は、英語ならabduction、つまり「拉致・誘拐」を意味し、諸外国では深刻な犯罪としているところが多い。

最近欧州各国では、調査報道に定評のあるテレビや新聞などが、この問題を盛んに報じている。フランス国営放送の人気番組「特派員」は、わが子に会おうと日本に潜入するフランス人の父親に同行取材し、警察官に不審者扱いされたり、「ガイジンは嫌いだ!」と叫ぶ日本人祖母に門前払いされたりする様子を映し出して、視聴者をあきれかえらせた。