旧態依然の日本の「家」制度

こうした状況の背景にあるのは、旧態依然でなかなか変わらない、日本の「家族」のあり方や制度だろう。

自らも、離婚の際に元妻に子どもを連れ去られたという上野弁護士も、「根強い『家』という社会通念がわざわいしているのです」と話す。

国際結婚の夫婦間の、子どもの連れ去り案件を多く手掛けてきたある女性弁護士は、次のように語る。

「日本社会では長年にわたり、離婚した場合は片方の親だけが親権を持つ『単独親権』があまりにも当然でした。別居や離婚の際には、母親が子どもを連れて家を出るのが当たり前。男性側が親権を求めることはほとんどありませんでした」
「別れた男性は養育費も支払わず、次の女性と結婚して新しい生活を始め、前の家庭のことを忘れても仕方がないと見なされてしまいます。女性側は、子どもが小さければ『お父さんは死んだ』と伝えるか、極悪人に仕立て上げるしかありません。日本人の多くが、こうした状況を変えようとしてこなかったために、法律も裁判所も変わらなかったというのが実情なのです」

「単独親権」しか認めない日本

日本の民法では、離婚後はどちらか片方の親のみが親権を持つ「単独親権」しか認めていない。親権を持たない親と子どもの面会交流は保障されないことも多い。

戦後に制定された憲法では、それまでの「家長」を中心とした「家」制度を廃し、婚姻は両性の平等と個人の尊重のもとに成立するものと定められた。しかし、戸籍制度に象徴されるように、「家」の考え方は今も婚姻制度の中に根強く残る。男性Aさんと女性Bさんが結婚して、同じ姓のもとに「家」を作り、そこに生まれた子どももその「家」に帰属する。そして、もしAさんとBさんが離婚すれば、子どもはAさんの「家」かBさんの「家」のいずれかに属するというわけだ。その上、伝統的に「母性」が重視される傾向が強い日本では、子どもは女性Bさんとセットで女性側の「家」に戻るのが子どもにとっても望ましいとされてきた。

しかし欧州などでは、結婚とはあくまでも個人と個人によるものであり、そこで生まれた子どもも独立した個人ととらえられる。親が不仲だからといって、子どもはどちらか一方の親に属するわけではない。子どもは両方の親と親しく交流しながら育つ権利を持つとみなされる。