「子どもに会いたい」――日本在住の欧州人男性の訴え
取材を進める中で、ある2つの記者会見の動画に行き当たった。日本国内で、日本人の妻に幼い子どもたちを突然連れ去られたという日本在住の欧州人男性、フィショー氏(フランス人)とペリーナ氏(イタリア人)の2人が、彼らの顧問を務める上野昇弁護士、調停員を務める児童心理学者の小田切紀子氏とともに、外国人記者と日本人記者向けに行った記者会見だ。
直接コンタクトして話を聞いたところ、彼らこそが、欧州議会で請願した4人の欧州人当事者のうちの2人だった。彼らは誰もが知る国際企業に長年勤務し、日本が好きで永住権も取得しているという。
2人とも、子どもを連れ去られてすぐに警察に通報したが、妻が子どもを連れてどこかへ雲隠れするのは「よくあること」として取り合ってもらえなかったという。
身に覚えのないDVを理由にされ、子どもと会えぬまま月日が過ぎた。2人は、長い協議やDVの嫌疑が晴れるまでに、小さな子どもがパパなしの新生活に慣れ、パパの記憶はおろか、パパと親しく会話するための言語すら忘れてしまうのではないかと、おびえる毎日を送っている。
上野弁護士は、「DVや虐待を理由に審議に時間をかけるのは離婚弁護士の常套手段。その結果『養育環境の継続性』や『母性優先』を重んじる裁判官が、母親に監護権・親権を与えるケースが90%にものぼる」という。
そもそも日本では、DVや虐待をきちんと査定し、被害者を保護し、治療・矯正しながら交流を可能にする方法や制度が確立していないことが問題だと小田切氏は指摘する。DVや虐待を検知し、加害者に治療や矯正を行う仕組みが整っていないために、パートナーからのDVや虐待から子どもを守りたい親は、子どもを連れて逃げるしかないと考える。
その一方で、検知や審査の仕組みが整っていないがために、DVや虐待がない場合でもそれを証明するのは難しくて時間がかかり、子どもを連れ去られた側は、子どもに会うことすらできなくなってしまう。しかし、世界中の専門家や調査に基づいて策定されている「子どもの権利条約」などの国際法では、子どもの連れ去りそのものがむしろ虐待と認定される場合もある。
「まだ離婚もしてない僕は、れっきとした親権者だし、生活費も払い続けているのに、子どもたちにはもう3年も会えていない……」とペリーナ氏は声を震わせる。「いっそのこと犯罪者にでもなれば、毎日30分でも面会が許されるのに……」と涙声になったフィショー氏。幼い子どもたちとの1~3年の断絶はあまりにも重い。