ネガティブなことを伝えるときの心がまえ

レビュー文化の浸透した開発チームでは、プログラマー同士の会話は、ときに知的ボクシングのような様相を呈する。

小野和俊『その仕事、全部やめてみよう――1%の本質をつかむ「シンプルな考え方」』(ダイヤモンド社)
小野和俊『その仕事、全部やめてみよう――1%の本質をつかむ「シンプルな考え方」』(ダイヤモンド社)

「ここはもう少しこういう書き方のほうがよいかと」
「いや、こうしたのには理由があって。○○を重視してあえてこうしたんです」
「そのやり方は少し前に流行ったやり方なんだけど、現代的ではないよね。なぜ廃れていったかというと、××という問題があり、いまは使われていないわけで」

こんなやりとりがかわされる。角のある発言をすることは、この知的ボクシングのグローブに釘を仕込むのと同じだ。レビュアーの宿命を引き受けたうえで、このグローブをふかふかのクッションにしなければならない。

これはレビューだけでなく、さらに言うとビジネスだけでなく、人間関係にも同じことが言える。

コミュニケーションはいつだって、楽しさや笑いに満ちていたほうがいい。ではどうすれば、グローブをソフトで心地よいものにできるのだろうか。

心地よい言い回しをするコツ3つ

①優しく言う

「ちょっと思ったんだけど」「~かもね」

ときには「ひよコード」でさえ凶器になる。「またひよコードかよ」と言ってはいけない。何かを指摘しなければならないときには「ちょっと思ったんだけどさ」と優しく語りかけるように心がける。確実に問題があるときでも「~という課題があるかもね」と、最後に「かもね」をつけるだけで一気にマイルドになる。

②自分が過去に同じミスをした話から入る

「ここはミスしやすいところなんだよね、昔自分も……」

「問題点に気づくのは、かつて自分も同じミスをしたから」という場合も多い。相手に問題点を指摘する前に、自分も同じミスをしたことがあることを告白しよう。相手との関係を「レビューする人とレビューされる人」から「同じミスをしたことのある仲間同士」へと転換することができる。

③相手に敬意を払う

「○○さんの言うことは本当にそうだなって思って」

「そもそもそれは間違ってますよ」などと言うと、内容を聞く前に相手が精神的ガードを上げてしまう。「○○さんの言うことは本当にそうだなって思って」と相手の考えを理解し、敬意を払う。そのうえで、「それで言うと、ここも直したほうがいいかなって思ったんだよね」と問題点を伝えよう。ただし、これは相手の言っていることと問題点とのつながりを見出したときのみ使える手法だ。むやみに使うと説得力が落ち、さらに頭が悪いと思われるので気をつけてほしい。

写真=iStock.com

小野 和俊(おの・かずとし)
クレディセゾン常務執行役員CTO

1976年生まれ。小学4年生からプログラミングを開始。99年、大学卒業後、サン・マイクロシステムズに入社。研修後、米国本社にてJavaやXMLでの開発を経験する。2000年にベンチャー企業であるアプレッソの代表取締役に就任。エンジェル投資家から7億円の出資を得て、データ連携ソフト「DataSpider」を開発する。13年、「DataSpider」の代理店であり、データ連携ソフトを自社に持ちたいと考えていたセゾン情報システムズから資本業務提携の提案を受け、合意する。15年にセゾン情報システムズの取締役 CTOに就任。19年にクレディセゾンの取締役CTOとなり、20年3月より現職。「誰のための仕事かわからない、無駄な仕事」を「誰のどんな喜びに寄与するのかがわかる、意味のある仕事」に転換することをモットーにデジタル改革にとり組んでいる。