投資初心者の過ち「やれやれ売り」とは
しかし残念ながらこれで長期資産形成への流れが定着に向かったとみなすのは早計だ。やはり投資というと個別株式を物色して相場で勝負すること、と考えている人たちの方が圧倒的に多い面は否めず、他方投資信託で投資を始めた人たちも激増したが、多くの初心者で適切な行動が伴わぬままだ。
市場連動型インデックスファンドなどの商品選択をした人の中には、結局投信を目先の値動きを予測しながらトレーディングするツールとして安直に売買してしまう人も少なくない。
また若い世代を中心に「つみたてNISA」の口座数は伸長しているが、足元の相場変化で早々に積み立てをやめたり解約してしまったりする人も後を絶たない。
ひとつめのパターンは、コロナショックの相場急落局面でこんなはずじゃなかったいう恐怖感から投資をやめてしまった人。もうひとつの典型は、急落で肝を冷やした後の相場急回復局面で、自分の投資額が含み損を解消した途端に慌てて売却してしまう人(こういうケースを業界では「やれやれ売り」と呼ぶ)。
いずれの場合も資産形成という目的は到底実現できないだろう。長期資産形成を投資の目的に据えて行動を始める人が大半であっても、多くの人が目先の相場動向に影響され、予定していた投資行動を衝動的に変えてしまったからだ。
金融業界の顧客本位の運営が問われている
金融庁はここ数年来、「貯蓄から資産形成へ」をキャッチフレーズとし、1000兆円を超えるわが国の預貯金から資産形成を目的としたリスクマネーへの抜本的資金シフトを目指して、いくつもの政策を掲げ意欲的に金融業界への改革を促している。すべての金融事業者に「顧客本位の業務運営」の実践を強く求める流れは現在の金融行政の中核であり、とりわけ顧客の資産形成ニーズに対しては、その目的に沿った成果実現に向けて最善の努力を尽くすことこそが真の顧客本位と定義している。
昨今多くの金融機関が積立投資の推奨を前面に掲げ始めたのは、そうした行政意図による反応なのだが、業界全体では総体的に「顧客本位の業務運営」への理解は表層的で、その実践は形式的なレベルにとどまっていると言わざるを得ない。顧客に投信の長期保有を勧奨するならば、その合理的理由を顧客に詳らかにし、共有することが資産形成アドバイスの大前提であろう。
すなわち先述した短期的に投資をやめてしまう人たちに、「投資対象の価格は短期的には相場の需給を要因にランダムな乱高下を繰り返すが、長期的には投資対象の価値増大(成長)に適合して、実体価値に即した価格水準へと収斂していくもの」という株式市場の特性をしっかりと理解してもらうことで、長期保有の合理的有効性に納得性を持てるはずだ。