トランプ大統領は秋からの対面授業再開を主張

米国のトランプ大統領は、経済・社会活動の再開の一環で、予算停止に踏み切る意向をちらつかせながら、新学期からの学校再開に意欲を示している。オンラインではなく、対面式授業の再開を強く求めており「学校は秋に再開しなければならない!」と相も変わらず、言い切り型の表現をツイッターで繰り返す。南部や中西部で感染拡大が続く中、教育・学校関係者間で物議を醸し、反発を招いている。

米国で最初のエピセンターとなり、「地獄を見た」(マーフィー・ニュージャージー州知事)東部の各州は、今は比較的落ち着いた状況を取り戻している。ニューヨーク州が実施するウイルス検査での陽性率は、ここ1カ月間、1%前後が続く。州が設けた基準に照らせば、経済再開が最終段階を迎えた地域では、直近14日間平均で陽性率が5%以下ならば学校を再開。直近7日間平均で陽性率が9%以上となれば閉鎖するとし、8月上旬には方針を示すという。

対面かオンラインか、世論は真っ二つに

米国の教育行政は基本的に各州、各自治体の教育局に委ねられている。筆者のもとには6月、地元教育局から保護者の意向を尋ねるメールが送られてきた。大きく分けて、①オンラインの継続、➁対面式授業の再開、③オンラインと対面式の組み合わせ――のどれが良いかを求め、それぞれに設問が続いていた。意見を表明できる機会が保護者に与えられている有難さを実感しつつ、熟慮した上、③と回答した。日本の小2にあたるセカンドグレードのわが子とその友達に、いくらソーシャルディスタンスを保つよう言い聞かせても、まだ通わせるのには一抹の不安が残るためだ。子ども同士でも、ハグが日常的な米国。3月以来、半年ぶりの再会となった瞬間、どのような光景が広がるか。保護者として、心配してもし過ぎることはないとは、こういう時に言うべきなのかもしれない。

ニュージャージー州の教職員組合は、早期再開に反対する意見をまとめた。地元大学による世論調査によると、州民の46%が安全対策を施しながらの再開を望む一方、42%はワクチンが利用できるまでは、オンラインを続けるべきと回答、真っ二つに割れている。冒頭で紹介した、子どもの安全と自らの負担軽減で頭を悩ませる保護者の思いは、どのような結論につながるか。米国で暮らす親の一人として、常に留意している。

オンライン教育が浸透しないまま学校が再開され、夏休みが大幅に短縮された日本。オンライン教育の態勢が万全な米国では、夏休みは通常通りに確保できたものの、新学期からの行く末が見通せない。「どちらが良い悪い」の問題でないのは言うまでもない上、子どもの感染リスク対策をめぐり、何が正解かは誰も分からない。それだけに、心の中で解消されないモヤモヤが堂々巡りしている。

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小西 一禎(こにし・かずよし)
ジャーナリスト 元米国在住駐夫 元共同通信政治部記者

1972年生まれ。埼玉県行田市出身。慶應義塾大学卒業後、共同通信社に入社。2005年より政治部で首相官邸や自民党、外務省などを担当。17年、妻の米国赴任に伴い会社の休職制度を男性で初めて取得、妻・二児とともに米国に移住。在米中、休職期間満期のため退社。21年、帰国。元コロンビア大東アジア研究所客員研究員。在米時から、駐在員の夫「駐夫」(ちゅうおっと)として、各メディアに多数寄稿。150人超でつくる「世界に広がる駐夫・主夫友の会」代表。専門はキャリア形成やジェンダー、海外生活・育児、政治、団塊ジュニアなど。著書に『妻に稼がれる夫のジレンマ 共働き夫婦の性別役割意識をめぐって』(ちくま新書)、『猪木道 政治家・アントニオ猪木 未来に伝える闘魂の全真実』(河出書房新社)。修士(政策学)。