男女の性差を生み出すのは、競争ではなくプレッシャー

これまでの研究では主に数学ゲームで男女の性差が調べられたが、今回の実験では、同じ条件で言語ゲームも行なわれた。

時間制限のある言語ゲーム

図表2‐Aは競争条件のない言語ゲームの結果だが、平均は男が12.91、女が14.91で男女の成績が逆転している。高得点者が女性であるのも目を引く。

図表2‐Bは競争条件のある言語ゲームで、平均は男が9.76、女は11.83で、女性被験者が競争によって不利になるようなことはない。出来高払いとトーナメントのどちらを選ぶかの質問でも、男の39%に対し、女の30%が競争を好んだ。

橘玲『女と男 なぜわかりあえないのか』(文春新書)
橘玲『女と男 なぜわかりあえないのか』(文春新書)

これは、「女は言語的能力が高い」という別のステレオタイプがあるからだろう。だからこそ女性被験者は自信を持ち、競争にも積極的になったのだ。

それ以外にもこの実験は、いくつか興味深い「男女のちがい」を教えてくれる。

時間制限をゆるめたプレッシャーのかからない条件で数学ゲームを行なうと、女性の方が成績が上がり、男女の得点差は縮まった。さらに、女性被験者がトーナメント(競争)に参加する率がほぼ倍になった。

プレッシャーのかからない言語ゲームでは、女性被験者の成績は大幅に上がり、トーナメントの勝者の72%を占めるまでになった。女性が競争に参加する率もやはり倍になっている。

時間の余裕があると、女性はそれを正答を増やす(一つひとつの問題をていねいに解く)ことに使うのに対し、男性はより多く問題を解こうとして、結果として誤答が増える。これは、男女の性差を生み出すのが「競争」ではなく、過度の「プレッシャー」であることを示唆している。

女性活躍の鍵は、不要な圧力の排除

男はより大きな報酬を求めて、プレッシャーのかかる状況でも積極的にリスクを取りにいく。その典型がウォール街のトレーダーで、成功者のほとんどは男性だ。だがアナウンサーやレポーターなど、プレッシャーがかかる状況で言語的タスクをこなさなければならない仕事では、女性も互角以上に能力を発揮できる。

より重要なのは、じつはこうしたハイプレッシャーの仕事はごく一部しかないことだ。現代の大半の仕事はロープレッシャーで、そこではジェンダーギャップはほとんどなくなる。

女性に「活躍」してほしいなら、職場や仕事でセクハラやモラハラ、パワハラなどの無意味な圧力をかけないようにすることが大事なようだ。

37 Olga Shurchkov(2012)Under Pressure: Gender Differences in Output Quality and Quantity under Competition and Time Constraints, Journal of the European Economic Association

写真=iStock.com

橘 玲(たちばな・あきら)
作家

2002年、金融小説『マネーロンダリング』(幻冬舎文庫)でデビュー。『お金持ちになれる黄金の羽根の拾い方』(幻冬舎文庫)、『言ってはいけない』(新潮新書)、『バカと無知』(新潮新書)、『シンプルで合理的な人生設計』(ダイヤモンド社)など著書多数。