価値観の大きな違いを乗り越えて
エチオピア産のシープスキンでつくる「アンドゥアメット」のバッグは美しく、ハッとするほどしなやか。上質なだけではない。食肉の副産物として出る皮のみを使い、産業廃棄物になってしまう端切れを出さないようデザインされた製品だ。
このエシカルで洗練されたブランドは、創業者である鮫島弘子さんが抱いたひとつの違和感をきっかけに生まれた。それは、国内メーカーのデザイナー時代に直面した、とっかえひっかえの消費サイクルに対する違和感。そのモヤモヤを発端にボランティアとしてエチオピアに渡り、ビジネスの構想を得た。
「現地でファッションショーを企画した際に上質なシープスキンに出合ったのですが、商品化する技術がないために、付加価値の低い原皮の輸出止まりである現状を知りました。そこで、産業が生まれるよう現地で職人を雇って、長く愛される革製品をつくる事業を思いついたんです」
帰国後、起業を目指して外資系企業でマーケティングを学び、単身エチオピアへ乗り込んだ。しかし、文化も環境も違う国での起業は苦労の連続。とくに職人たちと価値観を共有するために骨を折ったと振り返る。
「表から見えない裏側までまっすぐ縫えだなんて、弘子はいじわるだ」
そんな、心が折れそうな言葉を何度もぶつけられた。しかし、「一生使い続けたくなるようないいモノをつくる」という揺るぎない信念のもと、一ミリも妥協せず職人を育てることに専念。プライドの高い彼らの考え方を否定しないよう、100回褒めてから「でもね……」とつくり直しを求めるなどして指導を繰り返したという。彼女は言う。