モノのあふれる時代にモノを売るには?
現代社会は、モノであふれています。必需品はすでに飽和状態で、もしも消費が「必要なモノを買う」という単純な欲求充足行為にすぎないなら、新たな消費が生まれる余地はありません。そんな時代に「どうすればモノが売れるか?」という問いにヒントを与えてくれるのが、ボードリヤールの『消費社会の神話と構造』(1970)です。彼は経済学者ではなく哲学者ですが、現代社会の構造を“消費社会”ととらえ、ポスト構造主義の観点から鋭く分析しています。
彼によると、人間の消費には限度がなく、必需品を得るだけでは、消費への渇望はおさまりません。なぜなら現代社会の消費の根底には“差異化への欲求”があるからです。
たとえば腕時計。性能だけなら、2万円ぐらいのソーラー充電式の電波時計のほうが機能的です。でも人は、150万円もする手巻きのロレックスを欲しがります。なぜなら、ロレックスは時計というより“金持ち”の記号であり、150万円は機能に支払われる対価ではなく、“意味”に支払われる対価だからです。このようなボードリヤールの指摘をヒントに消費者の需要を読んでいけば、モノのあふれた現代社会でも、新たな消費需要はまだまだつくり出せるのではないでしょうか。