思い切って営業時間を3時間短縮、過去最高の契約数に

【白河】コールセンターは、24時間ですよね。

【西浦】当社のコールセンターは事故の受付は、もちろん24時間365日ですが、通常の見積もりや契約の継続は、9時から17時までです。今までは20時まででしたが、在宅勤務に切り替えてからは17時までとさせていただいております。やはり20時までだと家庭によっては夕食の時間などに重なってきますからね。

【白河】社員の働き方において、配慮されているということですね。そういう面も行き届いていらっしゃいますね。

【西浦】実はもともと営業時間は17時に短縮しようと考えていたんです。そうすることで、スタッフもシフトが組みやすくなり、その分、負担も軽減されるだろうと。ただ営業時間が3時間短くなると、それだけ売り上げも下がってしまうという恐れもあり、なかなか踏み切れませんでした。しかし、こういった状況になりましたので、思い切って17時に変えることができたわけです。

【白河】逆に実験できたということですね。実際に営業への影響はいかがですか。

【西浦】おかげさまで4月の新規契約の契約数は、過去最高の数字となり、それほど大きな影響は出ていないと考えております。

【白河】それは素晴らしいですね。それだけの生産性の高さを上げられた要因は何でしょうか。

【西浦】自動車保険ですので、こういった状況でもお車をお持ちの方は、満期が近づけば新たに加入したり、契約を更新したりしなければいけません。営業時間を短縮したとはいえ、在宅勤務に移行したことでほぼ平時と変わらないスタッフ数でお客様のお問い合わせに答えることができたのがひとつの要因と考えております。

【白河】しっかり在宅勤務に切り替えたことで、営業チャンスを逃さなかったということですね。

【西浦】また、これまでの経験からいいますと、お客様の在宅時間が長ければ長いほど、当社にかかる電話は多くなります。たとえば土日でも天気が良くて外出日和だと電話は少ないですが、雨が降って家にいらっしゃると電話が増えるんです。今回も自粛で家にいらっしゃるので、電話をしてみようというモチベーションになったのかもしれませんね。

6月からは出社率20%で試験運用

【白河】緊急事態宣言が明けて、どちらの企業も次の働き方はどうしようか迷っていらっしゃいますが、御社はどのようにされるのでしょうか。

【西浦】6月1日からは管理部門は引き続き在宅してもらい、コールセンターは一部出社する試験運用をしています。出社率は20%を目安にしています。そうすると、社員同士の接触もかなり抑えられて、ソーシャルディスタンスをとることができます。状況に応じて運用は柔軟に変えていく予定ですが、まずはこの形ですすめています。

【白河】社員のみなさんの声はいかがですか。在宅したいという声が多いのか、それとも早く出社したいという声が多いのか……。

【西浦】アンケートをとりましたら、今後も在宅を続けたいという社員は非常に多かったですね。ただ、長い間在宅していたので、とりあえず少しは出社したいという社員もいました。

【白河】わかります。ですから、ずっと毎日在宅をしたいわけではなく、働き方の選択肢を広げたいということですよね。

【西浦】そうですね。今回、2カ月間運用して在宅でも可能なことが確認できましたので、働き方のひとつとして取り入れることを検討したいと考えています。

 また今後の運営や働き方について、プロジェクトチームを立ち上げてスタディを行っています。今回は出社対応をした捺印などの業務も含めて、すべての業務のリモート運営を可能にして、緊急時にはいつでも在宅勤務率100%を実現できる態勢づくりに取り組みたいと思います。

構成=池田純子

西浦 正親(にしうら・まさちか)
チューリッヒ保険会社CEO

1968年、奈良県生まれ。米国サンノゼ州立大学卒業後、90年日本モトローラ株式会社、93年チューリッヒ保険会社入社。2001年アクサ損害保険会社セールス&マーケティング本部本部長を経て、10~12年チューリッヒ保険会社のダイレクト事業本部本部長としてダイレクト事業の成長に貢献。12~15年個人保険部門統括本部長として個人保険事業部門全体を統括しながら、経営委員会のメンバーとして経営の中核を担う。16年より現職。

白河 桃子(しらかわ・とうこ)
相模女子大学大学院特任教授、女性活躍ジャーナリスト

1961年生まれ。「働き方改革実現会議」など政府の政策策定に参画。婚活、妊活の提唱者。著書に『働かないおじさんが御社をダメにする』(PHP研究所)など多数。