「こんなもん、作れるか!」と父親が激怒
「たとえば子どものころ、学校の授業でミシンを扱った際に、うまく糸をかけられなかった、あるいはスピード調整が難しくてうまく縫えなかったなど。逆にこうした苦手意識を払拭できれば、新たな市場を創れるのではないかと考えました」(山崎さん)
そこで同社は、「簡単に使えるミシン」の技術開発に着手。一方で、大人用のミシン市場は先細りで、中小企業の自社が他社といきなり争うのは難しい。考え併せたうえで、まずターゲットにと考えたのは、大人ではなく「子ども」。山崎さんが、社内会議で提案したのは、「子供用ミシン(「毛糸ミシン Hug」)」の企画だったのです。
ところが、山崎さんの父親(前社長)は驚き、会議中に「こんなもん、作れるか!」と書類を投げ捨て、出て行ってしまったそう。まるでドラマのようですね。
根気強く前社長を説得
前社長が怒ったのには、理由があります。山崎さん提案の「子供用ミシン」は、毛糸をひっかけて本体にセットしボタンを押すだけで、さまざまな生地を簡単に縫い合わせることができるもの。特殊な針によって毛糸と生地の繊維を絡ませるので、さまざまなタイプの生地に毛糸で刺しゅうすることもできます。
そう、厳密にいえば、ミシンではなく「ミシンのように縫合できる(特許取得済)」商品。長年、ミシン一筋でやってきた前社長からすれば、認めたくない思いがあったのでしょう。
ところが、この様子を間近で見ていた社員たちが、「大丈夫ですか?」と山崎さんを気遣った。彼自身も、「社長を納得させられん自分が、アカン」と意を決し、根気強く前社長を説得したといいます。
結果的にこのミシンが、その後のヒット商品「子育てにちょうどいいミシン」の開発へとつながる、大きなヒントをくれたのです。