登校はお父さんのだぶだぶお下がりスーツで
先祖代々、入学する学校が決まっている家庭も珍しくありません。ただ学費はうなぎ登りにあがり続け、ここ10年ほど年間約10%ずつ値上がりしていますが、これはイギリスの過去10年間の平均インフレ率2.7%を大きく上回ります。不動産価格は為替同様、イギリスのEU離脱決定から低迷しており、前述の通り「資産はあるけれど現金なし」な彼らにとって節約しないと生きていけません。
長男の学校には制服がなく、登校はダークカラーのスーツと決められています。香港、シンガポール、ロシアなどからの海外留学生やロンドンシティー(金融街)あたりから来たニューリッチ層の中には、オーダーメイドで有名な高級紳士服店があるサヴィル・ロウ通りで、子供向けのスーツをあつらえる家庭もありますが(すぐに体が大きくなって着られなくなってしまうのに!)、イギリス人の子はお父さんのお下がりのぶかぶかスーツを着て行くのが一般的です。13歳の入学時にはダブダブだったそのスーツも15、6歳ころにはちょうどよくなるのです。制服がある学校の側は、だいたい制服の中古店があり、そこを利用するのが普通です。
ロンドンの名門幼稚園に長男を通わせているときにママ友だったスージーは、旦那様とともに代々ボーディングに通う家系なのですが、10年ほど前にロンドン郊外サリーの10ベッドルーム、敷地10エーカー(約4万平方メートル)の大邸宅に引っ越しました。しかしながら光熱費節約のため冬のボイラー設定温度は15度です。家の中がどんな状態かは想像するに難くなく、住み込みのお手伝いさんはその寒さに耐えられず辞めてしまいました。彼女自身は家の中ではダウンジャケット、ムートンコート、ウェリントンブーツと着られるだけ着込んで冬の寒さを凌いでいます。もちろんユニクロも大愛用だとか。今やお掃除に来てくれる人はいないので自分でやっていると聞いています。
男爵家の結婚式ではトイレの水が流れない
ロンドンに住んでいた頃、主人の友人の結婚式に招待されたときのことです。彼はボーディングスクール出身のイギリス人男性。お父様は男爵です。ロンドン郊外のご両親の邸宅の庭で行われるとの事、失礼のないようにと私は帽子とドレスを新調。まだ小さかった子供はベビーシッターに預け、ウエディングリスト(招待客からのお祝い)に2人で出席だからと500ポンドをご祝儀に入れて片道3時間かけて出かけました。
晴れた5月の青空の下、美しい芝生に真っ白い大テントの下で行われた結婚式はまるで映画の一コマのようでしたが、配られた飲み物をシャンパンと思って見ると、スペインの安価なカヴァ。お料理はビュッフェでしたが、メインはいつ出るのですが? とケータリング係に聞いてみると、こちらがメインですと、前菜だと思っていたコロネーションチキン(鶏肉をカレー粉とマヨネーズで和えた伝統料理)を指さすのです。チキンはソースに埋もれて認識できず、よく肉食のイギリス人が満足できるな、と感心していましたが、とりあえずカヴァをがぶ飲みして胃を満たすしかありません。
もちろん日本のように引き出物があるわけもなく、石造りの美しい邸宅のトイレを使わせていただきましたが、水が流れませんでした。