感染対策、姿を見せ始めた白アスパラ

マッチングが成功して働き始めたときに、直面する最大の問題は、現場での感染対策です。

4月23日、初めて筆者の利用するスーパーで、国産白アスパラ(左)が販売されていました。右のスペイン産のアスパラに比べて割高ですが、国産の方がよく売れています
4月23日、初めて筆者の利用するスーパーで、国産白アスパラ(左)が販売されていました。右のスペイン産のアスパラに比べて割高ですが、国産の方がよく売れています

地域の農業協会が整備したガイドラインは、農作業を通じての感染拡大防止のため、作業場所やグループ分け、距離の取り方、道具や休憩時間の管理などについて、細かい規定を設けています。また、各農家に、感染者が出た場合の従業員数や納期等を含めた緊急プランを考えておくよう指導することで、非常時の混乱を最小限にとどめるよう、準備を進めています。

既に、第一陣の新米収穫作業員たちは農地で収穫をはじめ、スーパーの棚にはようやく、最初の国産白アスパラが姿を見せ始めています。

都市生活者のあこがれ、農家の現実

春の白アスパラをこよなく愛すオーストリアでは、予想よりはるかに多くの人たちが農作業への援助を申し出ました。この背景には、失業で時間が空き、収入が必要という以上に、「春になって日の光を浴びて外で体を動かしたい」「憧れののどかな田舎で、大好物を収穫したい」という、都市部の労働者の、農業へのあこがれのようなものがあったのかもしれません。

しかし、実際に働こうとすると、遠い世界だった農家の現実を突きつけられます。食卓に並ぶあのおいしい白アスパラは、低賃金で働く外国人労働者の経験と重労働のたまものであったと、今回初めて知った人も少なくないはずです。

これまで外国人が支えていた国産野菜の収穫と流通を、今は国内の人材が支えています。来年の春には多くのオーストリア人が、自分たちの生活を支える農家と労働者に感謝しながら、以前よりずっと春の味覚を楽しめるようになっていることでしょう。

ウィーン近郊の名産地で購入したばかりの、白、緑、紫のアスパラ
ウィーン近郊の名産地で購入したばかりの、白、緑、紫のアスパラ(2012年撮影)

写真=御影実

御影 実(みかげ・みのる)
フォトライター/経営者/元国際機関職員

2004年よりウィーン在住。バイリンガル3人育児の傍ら、3か国語を駆使し、ネットショップオーナー兼ウィーンの歴史や文化を紹介するライターとして活躍中。「るるぶ」や「ララチッタ」などの旅行雑誌への情報提供や、海外旅行系ネットメディアへの連載執筆、ラジオ出演などを通し、オーストリア、ウィーンの広く深い魅力を紹介している。海外書き人クラブ会員