天職だと思ったが、労働環境は……

新卒で私立の女子高の教師を務めた後、予備校教師に転職した。生徒の「どうして?」という言葉に真摯に向き合うことに心底喜びを感じると同時に、生徒たちの大学受験においても成果を出すことができた。やりがいもあり、「天職だと思いましたね」と振り返る。

ただ、不満もあった。仕事は楽しかったが、職場環境は今一つ。「教師は『生徒への勉強の教え方』の教育は受けますが、社会人としての教育は受ける機会がありません。そのせいか、パワハラやセクハラも横行していました」

巣立った生徒たちが社会人になって山口さんと再会したとき、彼らのほうが社会人として「大人だ」と感じたという。

「社会にまともにでていない自分が、生徒たちに職業的な進路指導をすることはできない」

入社して5年目のころ、そんな葛藤から、山口さんは社会人セミナーに積極的に顔を出すことにした。名刺交換をすることすら新鮮で、衝撃を受けた。参加したセミナーの中には、経営者向けのものもあり、こんな世界があるのかと「社会人勉強」に勤しんだ。

悩みに悩み、1年後、たまたま理系枠のあった通信販売の会社に未経験で転職することになった。

社会人デビューするも、電話対応もままならず

教職から離れ、初めての一般企業デビューは惨憺たるものだった。電話を取ることすらままならず、敬語もまともに話せない。社会人の初歩の初歩のことから学ばなくてはならなかったのだ。「一人で出張に行ったときに、現地に到着したら会社に連絡をしなくてはいけないことを全く知らず、あとからずいぶん怒られました」と山口さんは苦笑する。

ただ、通販で化粧品やサプリメントを開発・販売している会社だったので、成分に関する説明をするときなどは理系の知識が生きた。

メイクについては高校生までは両親から一切禁止されていた。その反動か、大学生になってからは「なぜこのメイク用品は落ちにくいのか」といった疑問を持ったときは、自分で成分を調べることもあるほど興味を持つようになっていた。

一方会社の経営層やマネジャーは男性ばかり。女性はお茶くみやコピーをして過ごし、一定の年齢を超えると結婚・出産を機に辞めることが多かった。山口さんに「そろそろ子どもは産まないの?」と無邪気に質問する人もいた。