始めたばかりのころはトラブルがあって当たり前

当社では2015年に全社員リモートワークを開始しました。でも、社員にそう言いながらも、実は私自身はしばらく出社を続けていたんです。そのせいか、なかなか定着に至らず、しばらくしてから思い切って自分もすべて在宅勤務に切り替えました。

そこで初めて、先ほど言ったTV会議のやりにくさに気づいたのです。「1人対複数って何てやりにくいんだ!」と(笑)。幸いなことに自分は社長でしたから、やりにくいと思ったら忖度なしにどんどん改善していけました。

今は全員リモートワークでスムーズに仕事できていますが、始めた当初はさまざまなつまずきを経験したものです。でも、新しい働き方を取り入れようと思ったらつまずきもあって当然。大事なのはそれをどう共有し、どう改善していくかだと思います。

例えば、自転車に乗ったことのない人が「明日の通勤からは駅まで自転車で行こう」と決意したとします。最初は転んだりしてなかなか進めず、「歩いたほうが速いんじゃない?」と言われることもあるでしょう。でも、練習して乗れるようになったら、歩くより断然速くなる。僕はこれを「自転車理論」と呼んでいるのですが、リモートワークの導入にも同じことが言えると思います。

はじめは問題が起きても、それは練習期間。早々にうまくいかないと決めつけるのではなく、この段階を過ぎれば働きやすさも生産性も以前より向上すると考えて、各企業で前向きに取り組んでいただきたいと思います。

コロナが去ったあとも「出社して当然」には戻らない

「ベンチャーにはできるだろうがうちの会社では無理」「営業は足で稼ぐのが基本」「在宅勤務には子育てや介護などの理由がないとダメ」という上司もいるでしょう。そうした旧来的な考え方の上司を説得するのは難しいもの。でも、そういう人にもその人なりの理由や考え方があるはずです。

リモートワークを全社に広げたいのに上司の理解がなくて困っている──。そんな人は、上司の考え方をしっかり理解した上で話し合いにのぞみ、お互いの着地点を探っていくのがベストだと思います。これはコミュニケーションの基本でもあります。

今は出社を控えるのが基本路線ですし、顧客のほうも在宅勤務の導入を進めているはず。それでも出社を強要するようであれば、社員のことを考えていない会社と判断して、転職や独立を考えてもいいと思います。

その意味では、今は会社の考え方が試されている時期でもあります。出社を強要する風潮が続けば優秀な社員は流出していきますから、そうした会社はやがて淘汰されるでしょう。

私は、今の在宅勤務への流れは、コロナが過ぎ去った後も逆行しないと考えています。通勤しない働き方に慣れた人たちが、数カ月後に「今日からは毎日出社してくれ」と言われて何の疑問も持たないとは思えません。

ハンコ文化もそうですね。取引先とのチキンレースになるかもしれませんが、「電子捺印でいきませんか?」と言い出してみる。私は内容にもよりますがコロナ以前から取材や打ち合わせをZoomでやりませんかと提案してきました。いいですよと応じてくれることが多くなっていたんです。

今回のコロナ禍は、日本の企業が長年の習慣として続けてきた「出社して当然」という働き方を見つめ直す大きな機会になると思います。

構成=辻村 洋子 写真=iStock.com

倉貫 義人(くらぬき・よしひと)
ソニックガーデン代表取締役

1974年京都生まれ。1999年立命館大学大学院を卒業し、TIS(旧 東洋情報システム)に入社。2005年に社内SNS「SKIP」の開発と社内展開、その後オープンソース化を行う。09年、SKIP事業を専門で行う社内ベンチャー「SonicGarden」を立ち上げる。11年、TISからのMBOを行いソニックガーデンを創業。著書に『リモートチームでうまくいく』等。