検査を考えている場合は、早めに医師に相談を

4つの出生前診断は、いずれも実施できる週数が限られています。そして、もし「今回の妊娠はあきらめる」という判断をする可能性が少しでもあるならば、その場合法的には人工妊娠中絶は妊娠22週までに行うことと定められています。

「出生前診断は、妊婦健診とは違って必ず受けるべきものではありません。心疾患などの病気を抱えて生まれてくることも多いとはいえ、染色体異常それ自体は病気とは考えません。高齢出産で確率が上がるのは事実ですが、全体をみると医師から特に検査の案内がないこともあるかと思います」

NIPT検査では陽性と判定された場合、約8割の夫婦が人工妊娠中絶を選択するという報告もあります。命の選別につながる可能性もあり、こちらから積極的には案内しない、という方針の医師も少なくありません。

「ただ、赤ちゃんを育てていくのは、夫婦です。検査できる時期を逃して不安になる可能性があるなら、早めに医師に相談したほうがいいと思います。また早い時期なら、血液採取だけで検査ができるクアトロ検査、条件にあてはまるならNIPT検査も選択できます。結果によってどんな方針を選んだ場合でも、やはり早いほうが体への負担は少なくすみます」

夫婦での検討が欠かせない

「陽性だったら、自分はどうしたいのだろう」。検査を受けるという決断をするまでも、そして結果が出るまでの時間にも、出生前診断は夫婦にとって大きな問いを投げかけます。

「検査の結果をお伝えするとき、極端に緊張してこわばっている方もいらっしゃいます。クアトロ検査の結果説明の時でさえ、確率が低いとわかって、緊張の糸が切れて泣き出してしまう方もいます。赤ちゃんの運命も、またご自身や家族の運命も変えるかもしれない。そういう決断を迫られるかもしれないというプレッシャーはとても大きなものです」

月花先生自身も、昨年(2019年)10月に第一子を出産したばかりの新米ママ。出生前診断は受けなかったそうです。

「もし陽性という結果が出たとしても、妊娠をやめるという判断をするのはとても悩むだろうし、きっと決断できない……。だったら受けないで、その後に起きることはすべて受け止めよう、というのが私たち夫婦の結論でした。検査をするのか、しないのか、決めるのは夫婦です。職場でも時折、同僚とこの問題に関しては話をしますが、本当に考え方はさまざまです。ひとりで受け止めきれるものではないので、方針についてはパートナーと事前に話し合っておけるとベストですね。もちろん結果を聞いて、方針が変わることもあるかもしれません。それでも、やはり事前にある程度方針を決めておくことは、すごく大事。血液採取だけで、ある意味では気軽に受けられる検査もありますが、覚悟を持って受ける検査だと思います」

悩むことができる時間は、限られています。時間も意識しながら、可能ならパートナーとしっかり話し合うことが大切です。

構成=浦上 藍子 写真=iStock.com

月花 瑶子(げっか・ようこ)
日本産科婦人科学会産婦人科専門医

東京・新宿にある不妊治療専門クリニック杉山産婦人科に勤務。 産婦人科領域で事業展開するヘルスアンドライツのメディカルアドバイザーを務める。 共著書に『やさしく正しい 妊活大事典』(プレジデント社)、 監修メディアに「性をただしく知るメディア Coyoli」がある。