35歳以上の高齢出産では、年齢とともに妊娠中の合併症が少しずつ起こりやすくなってくるのに加え、胎児の染色体異常の確率が上がることも知られています。妊娠を喜んだのもつかの間、「出生前診断を受けるべき?」「陽性だとわかったらどうする?」と葛藤する夫婦もいます。出生前診断を考えるときに知っておきたいことを、産婦人科医の月花瑶子先生が解説します。
ベビーシューズを持ちながら手を握り合う夫婦の手元
※写真はイメージです(写真=iStock.com/crewcut)

まずは出生前診断について知ること

出生前診断とは、おなかの赤ちゃんの染色体異常や先天異常を調べる検査のこと。少し前までは、検査を受ける条件が設けられているものもありました。また、検査自体に流産のリスクを伴うものもあります。出生前診断の種類をチェックしていきましょう。

母体血清マーカー検査

妊娠15〜18週ごろまでにできる血液検査。妊婦の血液中の3種の成分を測定するトリプルマーカーテストと、4種の成分を測定するクアトロテストがある。費用は約1万円。

「出生前診断の一助としてまず最初に受ける検査として最も一般的です。ダウン症(21トリソミー)、18トリソミー、開放性神経管欠損症の確率を予測する検査です。結果は1000分の1、20分の1、といった確率で示されます。非確定検査なので、数字が比較的大きい場合は確定診断のための検査(羊水検査など)を受けることを検討します」

より精度が高い血液検査

NIPT検査(新型出生前診断)

2013年4月よりスタートした検査で、母体の血液中にある胎児のDNA断片を集め、その情報を見ることで染色体異常の可能性を診断する。妊娠10〜14週ごろまでに実施する。以前は検査を受けられるのは、35才以上という年齢制限もあったが、現在は適応が緩和され、年齢にかかわらず染色体異常に対する不安が強い場合や胎児超音波検査、母体血清マーカー検査で染色体異常の可能性が示唆された場合など、いくつかの条件が提示されている。また検査前後に専門家によるカウンセリングが推奨され、実施できる施設も限られる。費用は施設によるが15万~20万円程度。

「クアトロ検査と同じく血液検査ですが、より精度が高く、結果は陽性、陰性のどちらかに出ます。結果が陽性だったときは、絨毛検査、または羊水検査で確定診断を受けることを検討します」

絨毛検査

胎盤の組織の一部である絨毛を採取し、胎児の染色体異常、遺伝子疾患を診断する検査。妊娠10〜13週ごろまで受けられる。費用は10万~15万円程度。手技的にもできる施設は限られる。

「確定診断をするための検査です。羊水検査よりも早い、妊娠早期に受けることができます。ただし、流産や出血、腹膜炎などの合併症を起こすリスクがあります」

羊水検査

子宮に長い針を刺して羊水を採取し、羊水中に含まれる胎児の細胞を調べる検査。妊娠15~16週以降に受けられる。胎児の細胞を培養して診断するため、結果が出るまでには約2〜4週間ほどかかる。費用は10万~15万円程度。

「ダウン症、13トリソミー、18トリソミーなどの染色体異常がわかる確定診断です。超音波を見ながら注意深く針を刺し、羊水を抜き取ります。羊水検査での流産率は0.3%、母体には破水や出血、子宮内感染症などのリスクがあります」

検査を考えている場合は、早めに医師に相談を

4つの出生前診断は、いずれも実施できる週数が限られています。そして、もし「今回の妊娠はあきらめる」という判断をする可能性が少しでもあるならば、その場合法的には人工妊娠中絶は妊娠22週までに行うことと定められています。

「出生前診断は、妊婦健診とは違って必ず受けるべきものではありません。心疾患などの病気を抱えて生まれてくることも多いとはいえ、染色体異常それ自体は病気とは考えません。高齢出産で確率が上がるのは事実ですが、全体をみると医師から特に検査の案内がないこともあるかと思います」

NIPT検査では陽性と判定された場合、約8割の夫婦が人工妊娠中絶を選択するという報告もあります。命の選別につながる可能性もあり、こちらから積極的には案内しない、という方針の医師も少なくありません。

「ただ、赤ちゃんを育てていくのは、夫婦です。検査できる時期を逃して不安になる可能性があるなら、早めに医師に相談したほうがいいと思います。また早い時期なら、血液採取だけで検査ができるクアトロ検査、条件にあてはまるならNIPT検査も選択できます。結果によってどんな方針を選んだ場合でも、やはり早いほうが体への負担は少なくすみます」

夫婦での検討が欠かせない

「陽性だったら、自分はどうしたいのだろう」。検査を受けるという決断をするまでも、そして結果が出るまでの時間にも、出生前診断は夫婦にとって大きな問いを投げかけます。

「検査の結果をお伝えするとき、極端に緊張してこわばっている方もいらっしゃいます。クアトロ検査の結果説明の時でさえ、確率が低いとわかって、緊張の糸が切れて泣き出してしまう方もいます。赤ちゃんの運命も、またご自身や家族の運命も変えるかもしれない。そういう決断を迫られるかもしれないというプレッシャーはとても大きなものです」

月花先生自身も、昨年(2019年)10月に第一子を出産したばかりの新米ママ。出生前診断は受けなかったそうです。

「もし陽性という結果が出たとしても、妊娠をやめるという判断をするのはとても悩むだろうし、きっと決断できない……。だったら受けないで、その後に起きることはすべて受け止めよう、というのが私たち夫婦の結論でした。検査をするのか、しないのか、決めるのは夫婦です。職場でも時折、同僚とこの問題に関しては話をしますが、本当に考え方はさまざまです。ひとりで受け止めきれるものではないので、方針についてはパートナーと事前に話し合っておけるとベストですね。もちろん結果を聞いて、方針が変わることもあるかもしれません。それでも、やはり事前にある程度方針を決めておくことは、すごく大事。血液採取だけで、ある意味では気軽に受けられる検査もありますが、覚悟を持って受ける検査だと思います」

悩むことができる時間は、限られています。時間も意識しながら、可能ならパートナーとしっかり話し合うことが大切です。