責任感が強すぎるおじさんたち

もうひとつ、おじさんが不要不急の出社をしてしまうのは、単純に「責任感が強いから」という理由も考えられます。

日本人ビジネスマンは、とにかく責任感が強いので、仕事を簡単に放り出せないのです。かつて中東の情勢が緊迫し、すわ戦争かということで欧米のビジネスマンはさっさと逃げ出してしまったのに、日本人のビジネスマンだけは現地で普段通りに仕事をしていた、ということがありました。戦争になろうが何が起きようが、仕事を放りだすわけにはいかない。責任感の強いおじさんは、そういう思考をとるわけです。

お医者さんからうつ病だと診断されているのに、それでも出社しようとするおじさんも、やはり責任感が強いのです。自分の仕事を放りだして、自宅で休むことなどできないのです。そういうおじさんは、世の中がコロナウィルスの拡大で騒然としていようが、自分の仕事はやらなければならない、と考えるでしょう。なにしろ、戦争が起きそうなときでさえ外国から逃げ出さなかったくらいですから、コロナウイルス程度で怯えるわけがないのです。

「こんな時こそ出社せねば」と考えてしまう

責任感の強いおじさんは、「仕事を休む」ことが、「仕事をサボる」ように感じてしまいます。コロナに感染しないためには出社しないのが一番だとわかってはいるものの、そうはいっても出社しないと仕事をサボっているように感じて、罪悪感すら覚えてしまうのです。そんな罪悪感を覚えるくらいなら、いっそのこと出社してしまったほうが気がラク、ということもあるでしょう。特に、年配者になるほどそういう思考をとりやすいと考えられます。

若い人なら、「会社のために自分の生命を賭けるなんて、まっぴらごめん」と考えるでしょうから、「出社しない」という判断も簡単にできます。ムリに出社してコロナに感染するなんて、とんでもないと考えるはずです。出社しないことのハードルがそもそも低いのです。

その点、年配者はそういう判断はしません。コロナの影響で会社の業績が悪化していたら、なおさら忠誠心も、責任感も強いおじさんは、「こんなときだからこそ、出社しなければ!」と考えるのです。

年配のおじさんにとって会社と自分は一蓮托生ですから、沈みかかる船だからといって逃げ出すよりは、一緒に海に沈むことを選択しがちです。そんなメンタリティがあることもあって、「不要不急の出社」をするのだと心理学的には分析できます。

こうしたタイプのおじさんにはリスク情報を伝えるとともに、他社の対応事例など客観的な情報を伝えていくことが大切です。

<参考文献>
Gold, R. S. 2008 Confidence in judgments of comparative, own, and average person’s risk. Psychological Reports ,103, 591‐594.

写真=iStock.com

内藤 誼人(ないとう・よしひと)
心理学者、立正大学客員教授、有限会社アンギルド代表取締役社長

慶應義塾大学社会学研究科博士課程修了。社会心理学の知見をベースに、ビジネスを中心とした実践的分野への応用に力を注ぐ心理学系アクティビスト。趣味は釣りとガーデニング。著書に『いちいち気にしない心が手に入る本:何があっても「受け流せる」心理学』(三笠書房)、『「人たらし」のブラック心理術』(大和書房)、『世界最先端の研究が教える新事実心理学BEST100』(総合法令出版)、『気にしない習慣 よけいな気疲れが消えていく61のヒント』(明日香出版社)、『羨んだり、妬んだりしなくてよくなる アドラー心理の言葉』(ぱる出版)など多数。その数は250冊を超える。