医療従事者やこの状況で働く人々を全米が応援

イタリアなど欧州で起きている医療崩壊が、米国でも現実の問題として浮かび上がっている。自宅待機の対象外である必要不可欠な職業として挙げられた医療従事者や飲食業、宅配業者を支援する動きが、NYのみならず全米各地で広がっており、超大国・米国における社会的な裾野の広がり、連帯を痛感するような事象が起きている。

日本でもおなじみのスターバックスコーヒー、クリスピー・クリーム・ドーナツは最前線で働く医療従事者の方々に対する無償提供を始めた。アプリ上で寄付を募り、医療従事者や飲食業者を支援する取り組みも行われている。NY・マンハッタンなど高層アパートがある地域を中心に、毎日午後7時になると、この現況下でも働く人々に対し、2分間にわたって拍手を続け、歓声交じりで賛辞を贈るという実に米国らしいイベントが行われており、SNSで幅広く拡散されている。

一部スーパーは開店直後の時間帯を、高齢者や妊婦らだけに店舗を開放し、必要なものをゆっくりと買い物できるよう配慮している。自然災害や今回のようなウイルス禍でパニックが起きた場合、一段と弱い立場に置かれかねない方々を忘れることなく、優しい視線を注ぐ企業の姿勢には学ぶこと大だろう。

テント製の臨時病院に病院船……映画のような光景が現実に

4月1日現在、NYの感染者数は8万3712人、NJの感染者数は2万2255人に上っている。もはや、よほどの数にでもならない限り、驚かなくなっている自分がいる。NY、NJ両州知事は連日、記者会見に臨み、市民に対し情報を提供。米国の3大ネットワークに加え、CNNでも生中継されており、強いリーダーシップを示して不安解消に努めるだけでなく、市民が聞きたくないようなネガティブ情報も、具体的な数字を交えて正確に伝えている。

マンハッタンの中心で、広大な面積を誇るセントラルパークでは、テント製の臨時病院が突貫工事で完成。NYとNJの間を流れるハドソン川の埠頭ふとうには、米海軍の病院船が到着し、映画のような光景が連日繰り広げられている。

先日、子どもが通う現地校の保護者間で「大統領が軍を投入し、2週間全土を封鎖すると72時間以内に宣言する」旨のテキストメッセージが一斉に流れた。すぐに、デマと判明したが、さすがに背筋が凍った。信じがたい風景、不確実な情報が氾濫する中、情報の真贋を見極めながら、在米日本人としてさらに慎重に対応するのが肝要だ。

日々の状況を伝えるニューヨークのメディア。
日々の状況を伝えるニューヨークのメディア。

アジア、欧州の惨状をひとごとと受け止めていた、ないしは、受け止めたかった米国人の狼狽ろうばいぶりを見るにつけ、あっという間に国境を超えて、自分事となることの恐ろしさが改めて身に染みる。感染爆発が懸念される日本で今起きていることは、こちらの2週間前の出来事ではないか。自分自身はもとより、何よりも大切な人を守るために、どうか当事者意識と緊張感だけは忘れることなく、対処してほしいと切に願う。一人ひとりの責任感にあふれた行動が、周囲を助けることになるのだから。

次回は、今回のウイルス禍を受け自宅待機が続く米国で、働き方や家事分担にどのような影響が及んでいるかなどについて報告したい。

小西 一禎(こにし・かずよし)
ジャーナリスト 元米国在住駐夫 元共同通信政治部記者

1972年生まれ。埼玉県行田市出身。慶應義塾大学卒業後、共同通信社に入社。2005年より政治部で首相官邸や自民党、外務省などを担当。17年、妻の米国赴任に伴い会社の休職制度を男性で初めて取得、妻・二児とともに米国に移住。在米中、休職期間満期のため退社。21年、帰国。元コロンビア大東アジア研究所客員研究員。在米時から、駐在員の夫「駐夫」(ちゅうおっと)として、各メディアに多数寄稿。150人超でつくる「世界に広がる駐夫・主夫友の会」代表。専門はキャリア形成やジェンダー、海外生活・育児、政治、団塊ジュニアなど。著書に『妻に稼がれる夫のジレンマ 共働き夫婦の性別役割意識をめぐって』(ちくま新書)、『猪木道 政治家・アントニオ猪木 未来に伝える闘魂の全真実』(河出書房新社)。修士(政策学)。