誤解その2 60歳まで引き出せないのはデメリット?

一般的に“60歳まで引き出せない”というのはiDeCoのデメリットだと言う人がいますが、私はそうは思いません。むしろこれは大きなメリットだと考えています。iDeCoの本来の目的は60歳以降、リタイアした後の生活を支える手段の一つです。ところが、もしいつでも現金での引き出しが可能であったなら、何らかの事情で資金を必要とする時につい引き出してしまいがちになるのが普通の人間の心理ですよね。行動経済学でもこの傾向は確認されていまして、遠い将来に安心して老後生活を送ることを優先し、現在の楽しみを我慢するというのはなかなか困難なことなのです。であるとすれば、最初から「60歳までは引き出すことが出来ない」という仕組みにしておくことで、間違いなくやってくる老後の生活を支えてくれる柱が自動的にできることになります。

iDeCoは言わば自分で作る「年金・退職金制度」です。したがって中途で引き出せない仕組みにしておくことはとても意味のあることなのです。但し、途中で引き出せませんから、いくら有利だからといっても無理をしない方が良いでしょう。積立金額を決めるに当たっては過重な負担になるようなことはせず、続けられる程度で始めるのが良いと思います。

誤解その3 口座料が無料の金融機関を使うべき?

iDeCoを始めるにあたっては、自分でどこの金融機関を利用するかを選ばなければなりません。その際、どこが良いのかを考えるにあたって、毎年かかる口座管理料が無料あるいはとても安いところを選ぶ傾向があります。マネー雑誌の特集などでもこの口座管理料の比較表などを載せているところも多いようです。

もちろん口座管理料はコストですから安いに越したことはないのですが、金融機関を選ぶ一番の理由というわけではありません。なぜなら口座料というのは金額が決まっており、将来資産が増えてもそれによって増えることはありません。ところが投資信託にかかる運用管理費用(信託報酬と呼ばれています)は基本的に残高に対して何%という形で課金されますので、将来、積み立てて残高が増えていくと次第にその負担が大きくなります。したがって、いくら口座料が安くても投資信託のコストが高い商品ばかり並んでいるところは選ばない方が賢明なのです。

金融機関選びの鉄則3

また、iDeCoは60歳まで続ける制度ですし、多くの金融機関では対面サービスはなく、ネット証券のようにWEBとコールセンターでサービスを受けることになります。したがって、それらがいかに使いやすいかどうかも極めて重要なポイントです。私が考える金融機関選びのポイントは重要な順番で言えば、

1.投資できる選択肢が十分に揃っているか?
2.運用に関する手数料(信託報酬)の安い商品があるか?
3.WEBやコールセンターの使い勝手が良いか?

といったところで、口座料というのはこれらの条件が同じであれば、そこで初めて選ぶ基準にすれば良いと思います。

それに今では口座料がほとんど無料の金融機関は10社あまりになっていますから、それだけを基準に選ぶのはほとんど意味がないだろうと思います。

(※詳しくはNPO法人 確定拠出年金教育協会が提供している金融機関の比較サイト、「iDeCoナビ」で調べることができます)

このようにiDeCoに関しては様々なマスメディアやマネー誌が書いていることが必ずしもすべて正しいというわけではありません。大切なことは自分自身で調べてみること、そして自分にとって優先順位の高い利用法を考えてみることだろうと思います。今はまだあまりピンと来なくてもいずれ誰にでも老後はやってきますから、そのためにはできるだけ早くからその準備を少しずつでも良いので始めることが大切なのではないでしょうか。

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大江 英樹(おおえ・ひでき)
経済コラムニスト

大手証券会社に定年まで勤務した後、2012年に独立し、オフィス・リベルタスを設立し、代表に。資産運用やライフプランニング、行動経済学などに関する講演・研修・執筆活動などを行っている。近著に『定年前、しなくていい5つのこと』(光文社新書)など。