iDeCoで老後資金を準備している人は増えていますが、資金の配分方法や金融機関の選び方など、誤解していることも多いのだそう。経済コラムニストの大江英樹さんが勧める賢い運用方法とは――?
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※写真はイメージです(写真=iStock.com/JGalione)

iDeCoにまつわる大誤解

iDeCoの人気がじわじわと拡大してきています。iDeCoとは個人型確定拠出年金のことで、制度自体は2001年からあるのですが、利用することができる対象者が2017年から大きく広がったことによって、現在では146万人にも加入者が増えています。読者のみなさんの中にもiDeCoを利用している人がいるかもしれません。この制度の大きなメリットの一つが所得控除で、掛け金の全額が所得控除の対象となるため、例えば年収500万円ぐらいの会社員が、月々掛けられる限度額一杯の月額2万3000円を掛けると毎年5万円以上も税金が戻ってきます※1。したがって、利用できる立場の人であれば、おおいに利用すべきだと私は考えています。

※1おおよその金額であり、実際にはその他の条件で異なることもあります。

このように税制面で大きなメリットのあるiDeCoですが、色々な人と話をしていると、その利用法や運用の考え方について誤解している点があることにしばしば気付きます。そこで今回はiDeCoに関して多くの人が陥りがちな誤解について考えてみましょう。

誤解その1 iDeCoは分散投資すべき?

一般的に投資によって資産形成を行う場合は、「分散投資をすることが大切だ」と言われます。これはある意味、資産運用の基本ですから間違っていません。でもiDeCoの運用において分散投資をおこなうことが正しいかというと、それは必ずしもそういうわけではないのです。分散投資が大事というのは、あくまでも自分の資産全体で分散する場合の話です。自分の持っている金融資産はiDeCoしかない、という人はあまりいないでしょう。多くの人はiDeCo以外にも預金や投資信託等の金融商品を持っていると思います。したがって、iDeCoの資産の中だけで分散投資をしていてもあまり意味はないのです。

具体的に考えてみましょう。仮に自分の運用方針の中で外国株式の比率を10%にするとします。そこでiDeCoにおける資産配分も10%とした場合どうなるでしょう。仮にその人のiDeCoの資産の割合が自分の持っている金融資産全体の1割程度であり、他に外国株式資産を持っていないのであれば、その保有割合は10%×10%=1%しかないということになります。つまり、分散投資自体は大事なことですが、iDeCoの中だけで分散投資をしてもそれは適切な分散にはならないのです。

最も合理的な資産配分とは

では、具体的にiDeCoにおける資産配分はどう考えればいいのでしょうか。これは自分がどれくらいリスクを取れるのかにもよりますが、私が考える最も合理的な資産配分は、iDeCoにおいては期待リターンの高いリスク資産を充てるべきだということです。その理由は運用益に対して税金がかからないことにあります。リスク資産、つまり株式型の投資信託等で運用した結果、仮に3%の収益が得られたとしましょう。運用資産が100万円なら収益額は3万円です。ところが普通、この利益に対しては20%税金がかかりますから、6000円が税として引かれますが、iDeCoの場合は非課税ですから全く税金はかかりません。

もちろんリスクをとりたくない人は定期預金で運用してもかまいませんが、定期預金の場合だと現時点での金利はせいぜい0.1%程度です。100万円なら1000円の利息です。それを非課税にしても得られるメリットは200円程度しかありません。したがって定期預金にするのであればiDeCoではなく、普通の課税口座で利用すれば良いと思います。今のような超低金利の時代では預金の利息はわずかですから、課税でも非課税でも大差ないからです。

誤解その2 60歳まで引き出せないのはデメリット?

一般的に“60歳まで引き出せない”というのはiDeCoのデメリットだと言う人がいますが、私はそうは思いません。むしろこれは大きなメリットだと考えています。iDeCoの本来の目的は60歳以降、リタイアした後の生活を支える手段の一つです。ところが、もしいつでも現金での引き出しが可能であったなら、何らかの事情で資金を必要とする時につい引き出してしまいがちになるのが普通の人間の心理ですよね。行動経済学でもこの傾向は確認されていまして、遠い将来に安心して老後生活を送ることを優先し、現在の楽しみを我慢するというのはなかなか困難なことなのです。であるとすれば、最初から「60歳までは引き出すことが出来ない」という仕組みにしておくことで、間違いなくやってくる老後の生活を支えてくれる柱が自動的にできることになります。

iDeCoは言わば自分で作る「年金・退職金制度」です。したがって中途で引き出せない仕組みにしておくことはとても意味のあることなのです。但し、途中で引き出せませんから、いくら有利だからといっても無理をしない方が良いでしょう。積立金額を決めるに当たっては過重な負担になるようなことはせず、続けられる程度で始めるのが良いと思います。

誤解その3 口座料が無料の金融機関を使うべき?

iDeCoを始めるにあたっては、自分でどこの金融機関を利用するかを選ばなければなりません。その際、どこが良いのかを考えるにあたって、毎年かかる口座管理料が無料あるいはとても安いところを選ぶ傾向があります。マネー雑誌の特集などでもこの口座管理料の比較表などを載せているところも多いようです。

もちろん口座管理料はコストですから安いに越したことはないのですが、金融機関を選ぶ一番の理由というわけではありません。なぜなら口座料というのは金額が決まっており、将来資産が増えてもそれによって増えることはありません。ところが投資信託にかかる運用管理費用(信託報酬と呼ばれています)は基本的に残高に対して何%という形で課金されますので、将来、積み立てて残高が増えていくと次第にその負担が大きくなります。したがって、いくら口座料が安くても投資信託のコストが高い商品ばかり並んでいるところは選ばない方が賢明なのです。

金融機関選びの鉄則3

また、iDeCoは60歳まで続ける制度ですし、多くの金融機関では対面サービスはなく、ネット証券のようにWEBとコールセンターでサービスを受けることになります。したがって、それらがいかに使いやすいかどうかも極めて重要なポイントです。私が考える金融機関選びのポイントは重要な順番で言えば、

1.投資できる選択肢が十分に揃っているか?
2.運用に関する手数料(信託報酬)の安い商品があるか?
3.WEBやコールセンターの使い勝手が良いか?

といったところで、口座料というのはこれらの条件が同じであれば、そこで初めて選ぶ基準にすれば良いと思います。

それに今では口座料がほとんど無料の金融機関は10社あまりになっていますから、それだけを基準に選ぶのはほとんど意味がないだろうと思います。

(※詳しくはNPO法人 確定拠出年金教育協会が提供している金融機関の比較サイト、「iDeCoナビ」で調べることができます)

このようにiDeCoに関しては様々なマスメディアやマネー誌が書いていることが必ずしもすべて正しいというわけではありません。大切なことは自分自身で調べてみること、そして自分にとって優先順位の高い利用法を考えてみることだろうと思います。今はまだあまりピンと来なくてもいずれ誰にでも老後はやってきますから、そのためにはできるだけ早くからその準備を少しずつでも良いので始めることが大切なのではないでしょうか。