制度はあるのに使えない会社

一方で、リモートワークを導入してもうまく活用できていない会社が少なくありません。前述の調査では、リモートワークを導入している企業でも、利用している従業員の割合が5%未満という回答が半数近くを占めています。

また、すでにあった制度を縮小・廃止する会社もあります。有名なところでは、アメリカのヤフーやIBMがそれぞれ2013年と2017年に「リモートワーク廃止」を打ち出して話題になりました。

こういった事例を取り上げ、「リモートワークなんて一過性の流行にすぎなかった。やっぱり仕事はフェイス・トゥ・フェイスのコミュニケーションがないとうまくはずがない」と言う人もいます。

しかし、リモートワークにはメリットもあればデメリットもあり、それをどう捉えるかは、各企業の置かれた状況や戦略にもよります。

米ヤフーやIBMの場合、「リモートワーク廃止」を宣言したのは外から招かれた新しいCEOやCMOでした。彼らはグーグルやフェイスブックなどに押されて低迷した業績を立て直すというミッションを負っていました。社員を1カ所に集め、チームとしての一体感やクリエーティビティを高めることで、会社の再成長を狙ったのだと考えられます。その裏では、通勤不可能な距離に住んでいるなど、リモートワークありきで勤めていた社員の退職といった痛みもあったでしょう。

いざというときのリモートワークを可能にするには

会社の状況によっては、あえてリモートワークをしないという選択もありです。しかし、出社できない(すべきでない)事態への備えという意味では、どんな会社もいざというときにリモートワークができる体制は必要でしょう。

「いざというときにはできる」状態にするためには、何が必要でしょうか?

最低限の準備として、まずはルールと環境の整備が必要です。リモートワークをしようにも社外に持ち出せるPCがなかったり、書類のほとんどが紙に印刷されてオフィスに保管されているという状態であれば、仕事が進みません。社内の情報へのアクセスの仕方や取り扱い方も規定しておかなければ、情報漏洩などの事故につながります。

ルールや環境を整備するときに不可欠なのが、トライアルです。実際にリモートワークをしてみると、「こういうとき、どうするの?」ということが必ず出てきます。事前トライアルで疑問や問題を洗い出し、それを潰していくのです。

ある程度の準備ができたら、個々の社員のレベルでもトライアルをして疑問や不安を解消し、慣れておく必要があります。

リモートワークの制度を導入してもあまり活用されない企業というのは、このような事前準備が足りなかったり、社員に慣れてもらうための機会を作れていなかったり、という点に原因があるケースが多いようです。