新たなミッションのもと皆が一丸に

曙 代表取締役社長 細野 佳代さん

第三の壁はベテラン社員のプライド。古参社員や職人の多くは男性で、細野さんが意見を率直に言い過ぎた結果、関係が悪化してしまうこともあった。これを反省してからは、尊敬の念が伝わるよう“正論型”ではなく“相談型”の物言いに変更。相手ではなく自分を変えたことで、話し合いがよい方向へ向かうようになった。

「父がカリスマ型なら、私は協調型と言えるかもしれません。祖父と一緒に当社を立ち上げた祖母は、本当に優しくて社員皆のお母さんみたいな存在だったそうなので、父と祖母両方の長所を取り入れていけたら理想的ですね」

今は後継者としての大きな仕事を一つ終えたばかり。創業70周年を機に会社の進むべき方向を練り直し、全社員に向けて新たなミッションを発表したのだ。それは、創業時からの歴史を振り返り、今に至るまでつながっている「あけぼのの根底」を探り出す作業でもあった。

新たなミッションは「銀座あけぼのを、大切にする喜び連鎖を広げる会社にする」というもの。あけぼのを通して、一人でも多くの人が大切な人への思いを伝え、その連鎖が世代や国境を越えて広がっていきますように──。そんな思いを込めた。

昔からのあけぼのの理念に「お菓子が満たすのはお腹ではなく心」という言葉がある。細野さんのミッションからは、より多くの人の心を満たし、さらにその先にいる人の心も満たしていく姿勢が感じとれる。これは同時に、「この先も歴史を重ね続ける会社にする」という力強い宣言でもあるだろう。

ミッションをつくる際には、ある人からのアドバイスが軸になった。「会社は生き物だから、過去を理解せずに今を変えようとしてもうまくいかないよ」。その言葉に従って、細野さんはまず父親から会社の歴史や理念をつぶさに聞きとったという。

その過程では、父親がやってきたことと自分のやりたいことのズレも浮かび上がり、何度も衝突を繰り返した。だがある時、父親が「俺の時はこうした」と怒るのは、会社をよくしたいと願う気持ちからなのだと気づいた。

「その思いは私もまったく同じ。共通点を理解してからは対話がスムーズになりました。新しいミッションには、父をはじめ弟や親戚も『創業時からの思いが大切にされている』と納得してくれて、ようやく一丸になれた気がしています」

ファミリービジネスには、家族や親戚と共に働くからこそ持ち上がる問題も多い。第四の壁とも言えるこの難題を、協調型のリーダーシップと対話の力で乗り越えた細野さん。新しいミッションを携えて、あけぼのに次の歴史を積み重ねていく。

文=辻村洋子 撮影=小林久井

細野 佳代(ほその・かよ)
株式会社「曙」代表取締役社長

1964年生まれ。大学卒業後、祖父が創業した「曙」に入社。工場勤務を経て、89年に直営店舗である「銀座あけぼの たまプラーザ」店の店長となる。91年、本社・企画室へ異動。94年、企画室長兼営業部長に。2000年、商品部長(企画室長兼務)を経て、04年、代表取締役社長に就任。