「再発防止策を考える」周知徹底は次の失敗の温床
被害拡大の阻止と可能な修復が一段落したら、いよいよミスや失敗を生かすほうに目を向けます。その際、まず大切なのは、正しく反省することです。なぜそのミスが発現したか、なぜ周囲に迷惑をかけてしまう事態になったのか、客観的な視点で振り返ってください。
そして、その反省を踏まえて、再発防止策を考えるのです。
再発防止策をつくるときは、徹底して、「精神論は排除」することです。
具体的には、
・「よい方法、正しい方法を教えてもらおう」という教育への依存
・「気合を入れよう」という意識鼓舞
・「周知徹底します」「管理強化します」という建前やスローガン
は、ミスや失敗から成長するためには、まったく意味がありません。
こういった精神論は、そのときの気持ちを高揚させる効果があるので、日本には好きな方はけっこう多いようです。しかし、一時的な盛り上がりは、やがて冷めるもの。次の失敗の温度床でしかないのです。
ちなみに、ここで「よい方法、正しい方法を教えてもらおう」という教育への依存が入っていたことに疑問を持った方もいるかもしれません。
しかし、教育によって改善するミスや失敗の陰には、必ず、「そもそもなぜ、十分な教育がなされていない人が、その業務を1人で進めていたのか」という、組織の仕組みにおけるミスが隠れています。つまり、「未熟な人に、能力以上の作業をさせた」ということが、そもそものミスなのです。
その仕組みを変えないと、次もまた別の新人が同じ作業にあたり、またミスを繰り返すことになりかねません。ですから、教育だけで解決できるミスや失敗はほとんどない、と考えたほうがよいでしょう。
NG 発注のメールは3人にCCするようにして、皆が見るようにする
(NGの理由:メールのCCのこのような利用法は、責任感を喚起せず、結局誰も見なくなる)
↓
OK 発注数が普段と大きく異なるときはアラートが出て、それを解決する手順を踏まないと発注を確定できないようにする。
<例②>
NG 情報保持に関する社員教育を徹底する。
(NGの理由:教育では100%防ぐことができない)
↓
OK 情報漏洩を防ぐために、重要なエリアには電波ガード組織をつけ、電子機器の持ち込みや持ち出しを制限する。
精神論ではなく再発防止策をつくるためには、「次に同じミスをしようとしても、もうできない」という仕組みを考えることです。
写真=iStock.com
スタンフォード大学工学博士。1959年大阪生まれ。東京大学大学院工学系研究科修士課程修了後、General Electric原子力発電部門へ入社。その後、スタンフォード大で機械工学・情報工学博士号を取得し、Ricoh Corp.へ入社。2000年、SYDROSE LPを設立、ゼネラルパートナーに就任(現職)。2002年、特定非営利活動法人失敗学会副会長となる。 著書に『ミスしても評価が高い人は、何をしているのか?』(日経BP社)などがある。