「ミスや失敗は、どんなに対策をしても起きてしまう」なら、転んでも、“ただ”では起きるなというコンセプトで執筆された書籍『ミスしても評価が高い人は、何をしているのか?』の一部を抜粋し、起こってしまったミスや失敗を、組織内でプラスに変える方法を探ります。

※本稿は飯野謙次『ミスしても評価が高い人は、何をしているのか?』(日経BP)の一部を再編集したものです。

※写真はイメージです(写真=iStock.com/itakayuki)

新しいチャレンジをするたびに、ミスや失敗のリスクは高まって当然

新しくたくさんのことにチャレンジしている人や、日々忙しくしている人ほど、ミスや失敗のリスクにさらされているといえます。

そう、一般的に「評価が高い人」ほど、実はたくさんのミスや失敗をしているのです。

たくさんのミスや失敗をしていながら、彼らの評価が高いのには、理由があります。ミスや失敗を通して成功をつかみ取れる人、というのは、

・ミスや失敗に対する最初の行動が的確
・ミスや失敗から立ち直るのがうまい
・ミスや失敗を、経験として蓄積できる
・ミスや失敗から、成功する仕組みをつくれる

という流れを、自然に実践しています。

たとえばある仮説に基づいて実験をしていたとしましょう。しかし、思ったような結果が出ませんでした。そのとき科学者は、その失敗を客観的にとらえ、なぜ失敗したのか、どういう失敗だったのかを分析します。それをもとに新たな仮説を立てて、次の実験をしていく、ということになります。

この一連の流れは、「失敗」から「成功」に至る単純な道のりに思えますが、いざ、自分ごとになると、多くの方はこの冷静な対応ができなくなってしまいます。

視野が狭まることを理解し、慎重に対応せよ

客観的になってみると、ほとんどのミスは「なんだそんなこと」と思うくらい、シンプルです。

それでも当事者になった瞬間に、周囲が見えなくなってしまう。同様に不祥事の記者会見には、「なんであんな態度をとってしまうんだろう」と不思議に思うくらい、印象の悪い対応が多くあります。

しかし、ちょっと考えてみてください。通常、記者会見を行ったり、メディアで取りざたにされるのは、社会的に認知されていたり、立場のある人です。普段から言動に問題のある人は少ないはずです。

ミスや失敗は、起こった瞬間に動揺を引き起こし、視野が狭まってしまいます。ですから、ミスや失敗を起こしてしまったときには、普段考えている以上に慎重に歩を進めていく必要があるのです。

ミスを上塗りするくらいなら「何も見せない」が吉

思わぬミスや失敗が起こったとき、咄嗟とっさの反応をコントロールするのは難しいものです。

「とにかく、いったん、止まって深呼吸」

ミスや失敗への最初の反応(リアクション)は、余計なことをしない・言わないことが鉄則です。たいていのことは最初の反応では解決しませんし、いったん落ち着いて受け止めてから対応しても間に合います。

あなたにとっては大変な失態にしか思えないことでも、相手にとってもそうであるとは限りません。きっと何か、対応策が見つかるはずです。

反省はあとでもできる。まずは客観的な状況判断を

状況を冷静に分析し対応するためには、第三者の目を持つことが大切です。「私は取り返しのつかないことをしてしまった」という一人称の反省を抑え込んでください。

「自分が」という自責の念に駆られていると、対応の適切なタイミングを逃してしまう場合があります。不祥事の記者会見も、タイミングが遅れてしまえば、世間からの風当たりが強くなります。反省はもう少しあとでも遅くはありません。まずは状況の判断です。

仕事上のミスは、自分のものではありません。グループのもの、部署のもの、組織のものです。自分のミスや失敗は自分で何とかしなければ、という思い込みは捨てましょう。

ロスを最小にする“影響範囲”の把握と行動

まずは、起こしてしまったミスについて、下記の点をチェックしてください。

□その失敗は「どこ」まで影響するか?(=影響範囲)
□「どうすれば」影響範囲全体への影響を最小化できるか?
□「誰」に伝えればその影響範囲をカバーできるか?

キーワードは「影響範囲」です。

ミスが大ごとになると、私たちはつい、一刻でも早く、ミスそのものの対応策を取ろうとしがちです。「自分で何とかしよう」としてしまうのです。しかし、「影響範囲」という単位で見て行動することが、被害を最小限に抑え、一瞬で解決まで導いてくれる人を見つけるための最短ルートです。

この「誰に伝えればその影響範囲をカバーできるか?」を考える際のポイントは、最悪の事態を想定でき、そうならないためのポイントを的確に考えられるのは誰かということです。

ミスや失敗、とくに不祥事に関しては、私たちはつい、「ばれないだろう」「大ごとにはならないだろう」「うまくいくだろう」などと、根拠がないまま都合よく考えてしまいがちです。

これは、人間の脳が持つ「正常性バイアス」という機能。どんな人にもある性質です。脳にはこんな性質があるということを自覚したうえで、あえて最悪の事態を想定し、必要なら誰かの助けを得て、その最悪の輪を縮めていくイメージでミスや失敗と向き合いましょう。

スピーディに、広報に知らせることを忘れずに

第一報で伝えるべきは「起こったこと」です。なるべく憶測や希望、感情を交えず、誠意を持って「起こったこと」を伝えましょう。わからないことはわからないと言っても許されるのが第一報です。

もうひとつ、第一報で伝えるべきは「謝罪」です。謝るというのは、社会的行動です。ですから、謝罪においては、今現在起こっていることを極力客観的に説明してください。「ごめんなさい」「申し訳ありません」「すみませんでした」という言葉は、客観的な説明の締めくくりの言葉です。「その言葉を言うこと=謝罪すること」だと勘違いしている方は、今すぐ改めたほうがいいでしょう。

なお、先の「影響範囲をカバーできる人」に「広報」が含まれていない場合でも、そのミスや失敗が組織全体の評判に関わるものであれば、この時点で広報にも知らせておきましょう。近年、広報での対応は、ますますスピードが求められてきています。その時点で社外に情報発信・謝罪するかも含め、広報の専門家と相談してください。影響をより小さくとどめる助言を得ることができるでしょう。

「再発防止策を考える」周知徹底は次の失敗の温床

被害拡大の阻止と可能な修復が一段落したら、いよいよミスや失敗を生かすほうに目を向けます。その際、まず大切なのは、正しく反省することです。なぜそのミスが発現したか、なぜ周囲に迷惑をかけてしまう事態になったのか、客観的な視点で振り返ってください。

そして、その反省を踏まえて、再発防止策を考えるのです。

再発防止策をつくるときは、徹底して、「精神論は排除」することです。

具体的には、

・「もうこのミスはやらないぞ」「次からは気を付けよう」という決心・「私の不注意でした」という、不注意への責任転嫁
・「よい方法、正しい方法を教えてもらおう」という教育への依存
・「気合を入れよう」という意識鼓舞
・「周知徹底します」「管理強化します」という建前やスローガン

は、ミスや失敗から成長するためには、まったく意味がありません。

飯野謙次『ミスしても評価が高い人は何をしているのか?』(日経BP)

こういった精神論は、そのときの気持ちを高揚させる効果があるので、日本には好きな方はけっこう多いようです。しかし、一時的な盛り上がりは、やがて冷めるもの。次の失敗の温度床でしかないのです。

ちなみに、ここで「よい方法、正しい方法を教えてもらおう」という教育への依存が入っていたことに疑問を持った方もいるかもしれません。

しかし、教育によって改善するミスや失敗の陰には、必ず、「そもそもなぜ、十分な教育がなされていない人が、その業務を1人で進めていたのか」という、組織の仕組みにおけるミスが隠れています。つまり、「未熟な人に、能力以上の作業をさせた」ということが、そもそものミスなのです。

その仕組みを変えないと、次もまた別の新人が同じ作業にあたり、またミスを繰り返すことになりかねません。ですから、教育だけで解決できるミスや失敗はほとんどない、と考えたほうがよいでしょう。

<例①>
NG 発注のメールは3人にCCするようにして、皆が見るようにする
(NGの理由:メールのCCのこのような利用法は、責任感を喚起せず、結局誰も見なくなる)

OK 発注数が普段と大きく異なるときはアラートが出て、それを解決する手順を踏まないと発注を確定できないようにする。
<例②>
NG 情報保持に関する社員教育を徹底する。
(NGの理由:教育では100%防ぐことができない)

OK 情報漏洩を防ぐために、重要なエリアには電波ガード組織をつけ、電子機器の持ち込みや持ち出しを制限する。

精神論ではなく再発防止策をつくるためには、「次に同じミスをしようとしても、もうできない」という仕組みを考えることです。