自民党の“育休反対論”を崩せるか

そして、最も大きな効能は、現職閣僚がロールモデルとなり、同調圧力や前例なき事例への忌避に支配された「育休を取りづらい空気」を吹き飛ばす点だ。自ら率先して働き方改革の柱のひとつである育休取得の旗を振る。それが、与党・自民党の議員、かつ将来の首相候補となれば、その意味は極めて大きい。経営者・役員ら組織のトップ層、育休取得を希望する部下の上司にも意識の変化を突き付けるはずだ。

付言すれば、自民党内の一部に充満する政治家の育休反対論も打ち破ってほしい。仮に首相となった暁には、育児に注いだ2週間分のまたとない経験を余すことなく政策の立案・実現に還元し、待ったなしの少子化問題の解決に向けた処方箋として役立ててもらいたい。「育休を取得したら、はい終わり」では、あまりにも心もとない。復帰後こそが肝心だ。

米AP通信の科学記者、ポール・レイバーン氏は著書『父親の科学』で、父親が子育てで果たす重要な役割について記述。私自身、育児にあたる上で、大いに参考にしている。「生後4カ月の間に、父親が子どもの泣き声を聞いたり、子どもの写真を見たりした時、脳の一部の動きが活発になり、母親と似たような脳内変化が起きる」旨の研究結果を紹介。男性の育休についても「子どもが誕生して休暇を取得する男性は、のちのち子育てに深く関わる。それが結果的に職場での前向きな評価につながっている」と強調する。

最後になるが、不倫相手の女性と宿泊したホテル代に政治資金を流用したとする週刊誌報道が浮上した小泉氏は、説明責任を果たしていないとの批判にさらされている。政治家に打算や計算は付き物。「この問題から目線をそらし、イメージ回復を狙ったパフォーマンスではないか」との声が上がるのは政治家の宿命として避けて通れない道だということを、本人が最も理解していると思う。

写真=時事通信フォト

小西 一禎(こにし・かずよし)
ジャーナリスト 元米国在住駐夫 元共同通信政治部記者

1972年生まれ。埼玉県行田市出身。慶應義塾大学卒業後、共同通信社に入社。2005年より政治部で首相官邸や自民党、外務省などを担当。17年、妻の米国赴任に伴い会社の休職制度を男性で初めて取得、妻・二児とともに米国に移住。在米中、休職期間満期のため退社。21年、帰国。元コロンビア大東アジア研究所客員研究員。在米時から、駐在員の夫「駐夫」(ちゅうおっと)として、各メディアに多数寄稿。150人超でつくる「世界に広がる駐夫・主夫友の会」代表。専門はキャリア形成やジェンダー、海外生活・育児、政治、団塊ジュニアなど。著書に『妻に稼がれる夫のジレンマ 共働き夫婦の性別役割意識をめぐって』(ちくま新書)、『猪木道 政治家・アントニオ猪木 未来に伝える闘魂の全真実』(河出書房新社)。修士(政策学)。