企業年金、iDeCoに受取開始時期も延長

企業型DCやiDeCoが受け取れるのは、60~70歳の間で個人が選択できる。「65歳まで働くから、そのあと受け取ろう」といった選択をすれば、その間、資金は運用され、増える可能性もある。改正では、この受給開始時期をさらに75歳まで引き上げる。「まだまだ働くから75歳まで運用を続けたい」という選択も可能になるわけだ。

また企業年金には確定給付型年金(企業型DB)というタイプもあるが、この支給開始時期は企業が60~65歳の間で設定している。これも時期が拡大され、開始時期を70歳まで設定できるようになる。

いずれも、長く働ける人に対応する改正、というわけだ。

企業型DCがあってもiDeCoを利用できる

一部の会社員には、iDeCoが利用しやすくなる改正にも注目したい。

確定拠出年金では、企業型(DC)と個人型(iDeCo)の合計で月額5万5000円までが限度、という制限がある。企業型DCに加入している会社員がiDeCoに加入する場合、iDeCoの限度額は2万円のため、企業型DCを上限3万5000円にする旨、規約を定める必要がある。このルールがネックとなって、「iDeCo加入したいのに始められない会社員」がいる。

そこで、今回の改正では、規約の変更がなくても、5万5000円から企業型DCの拠出額を引いた額(2万円まで)までiDeCoに拠出できるように、ルールが変更される。例えば企業型DCに5000円拠出している人なら、iDeCoに月額1万5000円を拠出できるようになる。

iDeCoでは、拠出した額が所得から控除されて所得税や住民税が安くなる、運用益が非課税、といった税メリットを受けながら有利に老後資金づくりができる。一般的に若い人は企業からの拠出額も多くないので、ルールの緩和は歓迎すべきものといえる。iDeCoを積極的に利用して老後資金づくりを始めたい。

中小企業で働く人は注目

iDeCoには、中小企業向けの制度として「簡易型DC・iDeCoプラス」というタイプもある。企業型DCの制度を創設、維持していくのは運営コストの負担が大きいため、一定規模に満たない中小企業では、従業員がiDeCoに加入し、企業が掛け金を上乗せして拠出できる、というのが、iDeCoプラスだ。

現行では従業員100人以下の中小企業が対象だが、これを300人以下の中小企業にまで拡大する。今後導入される企業が増える可能性もあり、中小企業に勤務する人は注目したい。

改正案は国会の審議を経て実施時期などが決まる(2020年1月現在)。方向性をしっかり頭に入れておこう。

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井戸 美枝(いど・みえ)
ファイナンシャル・プランナー(CFP認定者)

関西大学卒業。社会保険労務士。国民年金基金連合会理事。『大図解 届け出だけでもらえるお金』(プレジデント社)、『一般論はもういいので、私の老後のお金「答え」をください 増補改訂版』(日経BP)、『残念な介護 楽になる介護』(日経プレミアシリーズ)、『私がお金で困らないためには今から何をすればいいですか?』(日本実業出版社)など著書多数。