老後生活の頼みの綱である年金。現在は65歳から受給するようになっているが、国民年金の受給権者の場合、60歳からに繰り上げる人が26%もいる。72歳・現役ファイナンシャルプランナー(FP)の浦上登さんは「年金が減額されるのに、なぜ繰り上げ受給をする人が多いのか謎だったが、65歳からに変更された際、自営業者やフリーランスの人にはスライド期間がなかったからだった。しかし、安易に繰り上げをするのはおすすめしない」という――。

国民年金しかもらっていない人が繰り上げをする比率が高い

「年金は繰り上げも繰り下げもしないのが一番いい」と、前回の記事で述べたが、調べてみると、繰り下げに比べ、繰り上げをしている人が多いことがわかる。

図表1を見てほしい。

国民年金受給権者・厚生年金受給権者を合わせて70歳以降まで年金繰り下げをした人の比率は、全体の1.5%で政府が推奨しているにもかかわらず、比率はあまり多くない。

それに対し、「60~64歳で受給開始」と、繰り上げをした人の比率は5.3%で、繰り下げの比率の4倍近い。

とくに自営業者、フリーランスまたは専業主婦といった国民年金をもらっている人の繰り上げ比率は何と25.7%にもなっている。それに対し、会社員・公務員だった人の場合は0.7%とほとんどないに等しい。

この極端な差は、どこから生じるのだろうか?

会社員や公務員には「特別支給の老齢厚生年金」がある

図表1をさらに詳細にみていくと、「国民年金」受給権者に分類されている人は、生涯国民年金しかもらっていない人で、例えば、会社に就職したが脱サラして自営業者になった人などは「厚生年金」受給権者に分類される。

すなわち、国民年金しか受給していない人に圧倒的に年金繰り上げ者が多いということになる。

【図表1】公的年金の繰上げ・繰下げの状況[2022(令和4)年度末時点]

私もこの数字を見たときは正直言って「実情がよくわからない」と思った。ところが、いろいろ調べているうちに得心が行くようになった。

それは、会社員や公務員は年金支給年齢引き上げの緩和措置である「特別支給の老齢厚生年金」をもらえるからだ。
そういわれても、すぐには何のことかわからないだろう。順を追って説明してゆきたい。