年金制度の改革案がまとまった。公的年金のほか、企業年金・個人年金も含めて、働く女性に大きく関係しそうなポイントをみていこう。改正の「意図」を知れば、老後のプランも立てやすいはず。
※写真はイメージです(写真=iStock.com/NoSystem images)

年金が多く受け取れる厚生年金加入者を増やす

公的年金について、働く女性に関係しそうなのが、厚生年金の「適用拡大」だ。

会社員が厚生年金に加入しているのに対し、短時間のパートタイマーなどで働く人は国民年金に加入しているケースが多い。現行では、➀1週間の労働時間が20時間以上、②月額賃金8万8000円以上(年収換算106万円以上)、③勤務期間1年以上見込み、④学生以外、⑤従業員501人以上の企業等(500人以下でも、➀~④を満たし、労使の合意がある)という5つの要件を満たすと、厚生年金に加入となる。

改正では、企業の規模について、2022年10月に100人超規模の企業、2024年10月には50人超規模の企業も厚生年金加入に広げるほか、勤務期間1年以上ではなく、2カ月超勤務する人も対象とする。

改正の狙いは、年金が多く受け取れる厚生年金の加入者を増やすことだ(制度改正で適用対象が拡大される「手取りが減っても厚生年金に加入した方が得か」参照)。

75歳支給開始なら84%アップ?

より長く働きやすくなる改正も行われる。

現在、年金の支給開始は原則65歳で、65歳より早く受け取る「繰り上げ受給」や、受取時期を遅らせる「繰り下げ受給」がある。繰り下げ受給をすると、年金額が1カ月当たり0.7%分多くなり、年金を増やす方法として注目する人も多い。

現行では70歳まで最長5年間遅らせることができるが、改正により、75歳まで繰り下げられるようにする。

70歳までの繰り下げでは年金額は42%増え、75歳までの繰り下げでは84%増える。支給額が15万円とすれば、42%増では21万3000円、84%増では27万6000円だ。受け取る額が多いほど税金や社会保険料も増えることには注意が必要だが、いつから受け取るか、選択肢が増えるのは悪いことではないだろう。

今回の改正では、長く働くことを促進(支援)が大きな柱となっている。つまり、国は「長く働くことを促している」、ということだ。長く、楽しく働けるよう、今から準備を進めておきたい。

企業型DCやiDeCoの加入可能年齢引き上げ

企業年金や個人年金はどうだろう。

企業年金には、企業が掛け金を拠出、従業員が運用する商品を選ぶ「確定拠出年金(企業型DC)」がある。この企業型DCについては、加入可能年齢が見直される。

現行で企業型DCに加入できるのは65歳未満の厚生年金被保険者で、現行でも雇用継続や再雇用で65歳まで働き、65歳まで企業年金に加入する人もいる。これを5年引き上げ、70歳未満の厚生年金被保険者まで加入できるようにする。老後資金を増やすことにつながり、長く働くことのメリットが増える。

また自分で掛け金を出して税メリットを受けながら年金づくりができる個人型確定拠出年金(iDeCo)についても、一部、加入年齢が現行の60歳から65歳に引き上げられる。

対象となるのは、65歳未満で国民年金に加入している会社員や公務員(第2号被保険者)と、任意加入被保険者(年金保険料の納付済期間が480カ月未満で任意で60歳以降も加入している人)だ。

自営業者やフリーランス(第1号被保険者)や、会社員や公務員の夫がいる専業主婦など(第3号被保険者)などは現行の60歳までで、変更はない。

企業年金、iDeCoに受取開始時期も延長

企業型DCやiDeCoが受け取れるのは、60~70歳の間で個人が選択できる。「65歳まで働くから、そのあと受け取ろう」といった選択をすれば、その間、資金は運用され、増える可能性もある。改正では、この受給開始時期をさらに75歳まで引き上げる。「まだまだ働くから75歳まで運用を続けたい」という選択も可能になるわけだ。

また企業年金には確定給付型年金(企業型DB)というタイプもあるが、この支給開始時期は企業が60~65歳の間で設定している。これも時期が拡大され、開始時期を70歳まで設定できるようになる。

いずれも、長く働ける人に対応する改正、というわけだ。

企業型DCがあってもiDeCoを利用できる

一部の会社員には、iDeCoが利用しやすくなる改正にも注目したい。

確定拠出年金では、企業型(DC)と個人型(iDeCo)の合計で月額5万5000円までが限度、という制限がある。企業型DCに加入している会社員がiDeCoに加入する場合、iDeCoの限度額は2万円のため、企業型DCを上限3万5000円にする旨、規約を定める必要がある。このルールがネックとなって、「iDeCo加入したいのに始められない会社員」がいる。

そこで、今回の改正では、規約の変更がなくても、5万5000円から企業型DCの拠出額を引いた額(2万円まで)までiDeCoに拠出できるように、ルールが変更される。例えば企業型DCに5000円拠出している人なら、iDeCoに月額1万5000円を拠出できるようになる。

iDeCoでは、拠出した額が所得から控除されて所得税や住民税が安くなる、運用益が非課税、といった税メリットを受けながら有利に老後資金づくりができる。一般的に若い人は企業からの拠出額も多くないので、ルールの緩和は歓迎すべきものといえる。iDeCoを積極的に利用して老後資金づくりを始めたい。

中小企業で働く人は注目

iDeCoには、中小企業向けの制度として「簡易型DC・iDeCoプラス」というタイプもある。企業型DCの制度を創設、維持していくのは運営コストの負担が大きいため、一定規模に満たない中小企業では、従業員がiDeCoに加入し、企業が掛け金を上乗せして拠出できる、というのが、iDeCoプラスだ。

現行では従業員100人以下の中小企業が対象だが、これを300人以下の中小企業にまで拡大する。今後導入される企業が増える可能性もあり、中小企業に勤務する人は注目したい。

改正案は国会の審議を経て実施時期などが決まる(2020年1月現在)。方向性をしっかり頭に入れておこう。