ブランク7年の再挑戦
仕事を辞めてから7年が過ぎていた。長男が5年生になったころ、「お母さん、仕事に本腰を入れてみようと思うんだ」と聞いてみると、長男は「僕はもう大丈夫だよ」と背中を押してくれた。
その言葉に励まされ、もう一度仕事をしてみようと市原さんは動き始めた。しかし、ブランクの長さに一般企業では再就職は難しそうだと断念。そこで一念発起し、「人の役に立つことをしたい」と起業することにした。
起業した初めのころは、かつて培ったクリエイティブやマーケティングの受託やウェブ制作を受注していた。しかし、徐々にファッションに関するビジネスでの事業展開を考えるようになった。
なぜファッションで起業したか
あんなに無頓着だったファッションアパレルで起業することにしたのは、LVMHでの経験に加え、入院時のファッションが影響していた。
入院中の長男を看病するとき、看護師に「雑菌が入るのでニットを着てこないでください」「常に洗った服を着てきてください」という服装の指示があったため、デニムのスカートにコットンのTシャツで毎日過ごすしかなかった。
そんな生活をしていたため、起業して外部とのミーティングが入ったときに着ていく服がまるでないことに気づいた。とはいえ、働いていたころと違って出せるお金も限られている。「毎日自分のワードローブとにらめっこしていました」(市原さん)
パーソナルスタイリストの可能性
そんなとき、「パーソナルスタイリスト」という職業があり、日々のコーディネートにアドバイスをしてくれる人の存在を知った。早速ネットで検索して、プロのパーソナルスタイリストを家に呼ぶことにした。
パーソナルスタイリストは、市原さんの持っているワードローブを確認すると、「もっとハリ感のある素材を選んだほうがいい」などと具体的な言葉でアドバイスをしてくれた。ファッションの良し悪しというのは感覚的なものだと思っていたが、きちんと言語化できることに驚き、パーソナルスタイリングの価値を実感し、そこにビジネスの芽を感じたのだった。
その一方で、短所も発見した。「長いチェスターコートを買ったほうがいいよ」とパーソナルスタイリストに言われたものの、どこで買えるのかはわからないのは難点だった。また、2時間あたり3~4万円が1回の利用料の相場であり、この金額では毎月気軽に使えそうもなかった。
2015年、パーソナルスタイリングをサービスの主軸にしたいという目標のもと、まずは自分のクローゼットを整理する機能のあるスマホアプリパーソナルスタイリング「LetMeKnow」をローンチした。そうすると、中にはサービスを面白いと言ってくれる人も出てきたため、1年後には会員制のオンラインパーソナルスタイリングサービスへとリニューアルした。