チームの一員として働くほうが向いているかもしれない
なんとか法律事務所に入り、1度、事務所を移って法廷にも立った。しかし、「やはり会社の中でチームの一員として働くほうが向いているかもしれない」という気持ちに。転職エージェントに登録してみると、次々に内定をもらえて驚いた。その中から三菱自動車工業に入ったのは、面接などで出会った社員たちに以前いた新日本製鐵と似た雰囲気を感じたから。会社の持つカルチャーがフィットした。そして、49歳で入社し、2015年に法務部長に昇進。しかし、2016年、燃費不正という会社を揺るがす大問題が起きる。
「それはやはり非常に大変なことでした。私の仕事としては国土交通省への対応、第三者の組織を立ち上げて内部調査をする。さらに、それをきっかけとした日産自動車との資本業務提携。それらを準備期間なくバタバタと決めていきました。もちろん内外にいろんな軋轢は起きましたが、とにかくガーッと対応を進めていくことが役割だったと思います」
キャリア上最もハードな日々になったという。そして2019年、女性初の執行役員に。法務畑の役員として会社の将来にもビジョンを抱く。
「現在はやはりマイナスのイメージが付きまといますが、いつかこの会社を日本企業の中でのガバナンスのお手本のようにしたい。名刺を出したとき、『三菱自動車ですか』と相手の方の目がキラリと光るような、そんな会社にしたいと思います」
いったん組織を出て、あらためて選択した企業人の道。直感で決断するが「決めたら迷わない」。そんな強靭さで現在のキャリアを築いた。「夫からは『君って丈夫だったんだね』と言われてしまったんですが、まだまだ力をフルに出し切っていない。今はそんな気がしています」
役員の素顔に迫るQ&A
Q 好きな言葉
謙遜も射手見せ顔も無益なり。ただ淡々と射るが射手なり(弓道・日置流印西派の指南首)
Q 趣味
スポーツ観戦、海外ドラマ観賞
Q ストレス発散
犬との散歩。お風呂に入ること
Q 愛読書
村上春樹著『国境の南、太陽の西』
Q Favorite Item
ショルダーバッグとスマートウォッチ
文=小田慶子 撮影=市来朋久
1987年、新日本製鐵に入社。法務を担当するなど、18年間、勤務する。2005年に東京大学法科大学院に入学。弁護士として法廷に立った後、14年に三菱自動車工業入社。15年に法務部長となり、17年に理事、法務部長。19年4月より現職。