夫にとっても意外なメリットが

私自身は、父子帰省は男性にとっていい訓練になると思っています。イクメンも増えてはいますが、自分と子どもだけで遠出したことがある男性はまだ少ないのではないでしょうか。特に実家が遠方で、小さな子を連れて新幹線や飛行機に乗るとなると、その大変さは想像以上です。

普段、妻に育児を任せっぱなしにしている男性は、その大変さが身にしみてわかることでしょう。最初は戸惑うかもしれませんが、帰省の間ずっと子どもの面倒を見ていれば、自宅に戻る頃にはきっとレベルアップしているはずです。我が子とじっくり向き合う時間もとれて、一石二鳥だと思います。

きちんと家事育児分担ができている男性にとっても、自分と子どもだけでの帰省はちょっとした冒険です。子どものいつもとは違う一面が見られたり、育児に関して新しい気づきを得られたりすることもあるかもしれません。

もうひとつ、仕事と家庭を両立している女性にとって「ひとりの時間」はとても貴重なものです。男性は、この時間をつくってあげるためだけに父子帰省してもいいぐらいだと思います。

介護も個別化の時代へ

これからは、夫婦であっても自分の親との関係は自分でケアするのが普通になるでしょう。これは帰省だけでなく、将来ありうる介護についても同じです。「帰省も介護も妻と一緒に」と思い込んでいる男性は、今のうちに変化に慣れておく必要があります。父子帰省は、その第一歩としてもおすすめです。

さて、ここまで父子帰省のメリットについてお話ししてきました。合理的かつ経済的で、男性はいい訓練ができ、女性は貴重なひとり時間を得られると。ではデメリットはというと、今のところ特に思い当たりません。

父子帰省についてはまだ統計がなく、賛成派や反対派がどのぐらいいるのか、どのぐらいのペースで増えているのかといったことはわかっていません。しかし、日本の家族規範は父系から個別化へと確実に向かっています。「夫の実家への帰省が憂うつで……」という女性は、夫にこの変化に適応してもらうためにも、父子帰省を提案してみてはいかがでしょうか。

構成=辻村洋子 写真=iStock.com

筒井 淳也(つつい・じゅんや)
立命館大学教授

1970年福岡県生まれ。93年一橋大学社会学部卒業、99年同大学大学院社会学研究科博士後期課程満期退学。主な研究分野は家族社会学、ワーク・ライフ・バランス、計量社会学など。著書に『結婚と家族のこれから 共働き社会の限界』(光文社新書)『仕事と家族 日本はなぜ働きづらく、産みにくいのか』(中公新書)などがある。