愚痴の代わりにキャッチフレーズ
自分の考えを伝えるときも、女性はつい、愚痴から話を始めてしまうことが多い。まずは、「悲惨な現状」と「悲しい気持ち」をわかってもらいたいと思うから。
けど、夫相手には、これも逆効果なのである。結論から言ったほうが、すんなり理解してくれる。
とはいえ、「今日はご飯作りたくない。ただ、だらだらしたい」なんてことは、真面目な主婦は言いにくいよね。
私は、言いにくいことにはキャッチフレーズを付ける。「家族みんなの幸せのために、今日、お母さん、ご飯作らない」と宣言してしまう。「どういうこと?」と聞かれたら、「今日はとにかく疲れてて、今、ご飯作ったら、きっとイライラしてキレちゃうと思うのよ」と告白する。夫と息子は、爆発物でも発見したかのように、そうっと後ずさって、なんとかしてくれる。
愚痴や文句のかたちにすると、「たいへんなのは、君だけじゃない」「俺だって、忙しいんだよ」なんて言い返されて、心が望んだところには着地しない。
ポジティブ・プレゼンテーションと、明るいキャッチフレーズで、ちゃっかり自分のしたいようにする。実のところ「ひ弱なふりをして、甘える」という手も効くのだが、これを多用すると、下に見られて、大事な提案が通らない。女は覚悟を決めるしかない。
とはいえ、たまには、「これ、とれない」「痛~い。助けて」くらい言ってあげたほうが、男女の情が通うかも。今、この原稿を書いている2メートル先で、およめちゃんが、からんだ毛先をつまんで、このセリフを夫である息子に言ったら、息子が飛んできて、丁寧に解いてあげて、キスをしている(微笑)。
私は覚悟を決めすぎて、これが足りなかったんだなぁ、と、ちょっと反省。腹は夫の100倍すわっていても、ときどき、「できない~」と言って甘えるのが正解ですね、きっと。
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1959年、長野県生まれ。人工知能研究者、脳科学コメンテイター、感性アナリスト、随筆家。奈良女子大学理学部物理学科卒業。コンピュータメーカーでAI(人工知能)開発に携わり、脳とことばの研究を始める。1991年に全国の原子力発電所で稼働した、“世界初”と言われた日本語対話型コンピュータを開発。また、AI分析の手法を用いて、世界初の語感分析法である「サブリミナル・インプレッション導出法」を開発し、マーケティングの世界に新境地を開拓した感性分析の第一人者。近著に『共感障害』(新潮社)、『人間のトリセツ~人工知能への手紙』(ちくま新書)、『妻のトリセツ』『夫のトリセツ』(講談社)など多数。