安全なシンガポールドル、預金保護制度

通貨の安全性も高く、シンガポールドルは主要通貨に対して変動率がかなり抑えられています。その理由の一つは「通貨バスケット方式」で複数の外貨に連動したレートを採用しています。もう一つは、管理変動相場制を導入することで変動幅が一定の枠内に収まるように管理しています。

シンガポールには政策金利は存在せず、政府が為替変動のコントロールを行っています。経済が貿易に大きく依存しているため、物価の動きよりも、為替の動きのほうが景気に大きく影響するからです。好景気には為替相場が上昇しやすく、不景気のときは為替相場が下落しやすくなるように誘導しています。

通貨の流通量が気になる人もいるかもしれませんが、対米ドルベースのシンガポールドルの取引高は世界10位です(2019年 国際決済銀行(BIS)による「世界の為替取引量調査」)。外為取引のハブとしても、英国、米国に次いで、アジアではトップとなっています。

預金の保護に関しては、日本の預金保険機構に似た仕組み(SDIC)があります。SDICスキームメンバーの金融機関によるシンガポールドル対象の預金であれば7万5000シンガポールドルまで、生命保険は10万シンガポールドルまでの保護があります。ただし、外貨預金や仕組み預金などは対象外です。

ブルームバーグ社による「世界銀行番付」(2015年)でもシンガポールトップ三行のDBS、OCBC、UOBは世界トップ10にランクインしています。シンガポールの金融機関、シンガポールという通貨、シンガポールという国は安心安全だと言うことができます。このため、世界中から富裕層を引き寄せ、数十年という短期間でプライベートバンクの本場のスイスと同じような地位を築くに至りました。また、スイス本場のプライベートバンクは看板がないなど、敷居が高いですが、シンガポールはフレンドリーで初心者でも入りやすいという理由があります。

シンガポールは日本の富裕層が好む海外オフショア(税金が優遇される場所)の投資先としても人気です。最近の調査では、1位ニューヨーク(35.8%)、2位シンガポール(15.5%)、3位ロンドン(12.5%)の順となっています(Capgemini「Asia‐Pacific Wealth Report_2017」)。まさにお金は安心安全な国に流れるのでしょう。災害が少なく、政情も安定しているシンガポールはスイスと同じように「アジアにおけるお金の保管先」として選ばれ続けそうです。

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花輪 陽子(はなわ・ようこ)
1級ファイナンシャル・プランニング技能士

外資系投資銀行を経てFPとして独立。2015年からシンガポールに移住。『少子高齢化でも老後不安ゼロ シンガポールで見た日本の未来理想図』など著書多数。