個人の働く意欲を阻害しない社会保険制度を

今回の法改正は厚生労働省の審議会(社会保障審議会年金部会)で議論されているが、議論の土台となる厚労省の報告書(「働き方の多様化を踏まえた社会保障の対応に関する懇談会」2019年9月20日)でも、この問題について触れている。

「まず、男性が主に働き、女性は専業主婦という特定の世帯構成や、フルタイム労働者としての終身雇用といった特定の働き方を過度に前提としない制度へと転換していくべきである。(中略)ライフスタイルに対する考え方が多様化する中、生涯未婚の者や、離婚の経験を持つ者、一人親で家族的責任を果たしている就労者もいる。(中略)社会保険制度は、こうしたライフスタイルの多様性を前提とした上で、働き方や生き方の選択によって不公平が生じず、広く働く者にふさわしい保障が提供されるような制度を目指していく必要がある。加えて、個人の働く意欲を阻害せず、むしろ更なる活躍を後押しするような社会保険制度としていくべきであり、特に、社会保険制度上の運用基準を理由として就業調整が行われるような構造は、早急に解消していかなければならない」

第3号被保険者の就業調整の問題点については「自ら追加的な保険料を負担する必要がないため、被扶養者認定基準(現在は年収130万円未満)を意識した就業調整が行われることになり、短時間就労する女性の働き方に大きな影響を与えてきたとの指摘がある」とも述べている。

ただし、第3号被保険者については「適用範囲を拡大することで制度のあり方について将来像を議論していく必要性が指摘された」という文言にとどまっている。

第3号年金は日本の労働市場に悪影響

その後、開催された厚労省の審議会(9月27日)でも第3号被保険者について熱い議論が戦わされた。その中である委員は「第3号被保険者が近くのスーパーで働き始めると、単身者やシングルマザーなどの自身で生計を立てざるをえない方々の賃金水準とか労働条件に悪影響を与えるばかりか、近隣の商店街の経営にも悪影響を及ぼしかねないということになるのではないか」と指摘している(議事録)。

つまり、第3号被保険者が就業調整をするために賃金が上がりにくい構造になり、他の働き手の賃金も低いままに据え置かれ、その分、スーパーは商品を安く売って競合する地域の商店の経営に悪影響を与えると言っている。そしてこの委員はこう述べている。

「これはもはや一定程度正義の問題なのだろうと思います。社会保険は世界第4位の質を誇ると言われております日本の労働市場への悪影響を排除するということ、これが喫緊の課題だと思っております」(議事録)

第3号被保険者制度の廃止を示唆するこうした勇ましい議論が飛び交ったが、結局、従業員規模を500人以下に引き下げて社会保険の適用範囲を拡大することで決着しつつある。しかも現時点では自民党などとの調整作業で「51人超」になることが有力視されている。